ESG投資とSDGs(その12)…新設した「SX銘柄2024」を海外にPR
環境や社会課題解決へ改革

経済産業省と東京証券取引所は、環境や社会課題の解決を通じて企業価値に取り組む先進上場企業をとりあげる「SX(サステナビリティー・トランスフォーメーション)銘柄」を2023年に新設しました。毎年10社程度を選び、国内外の投資家に積極的にアピールします。変革する日本企業を世界へ積極発信し、海外投資家を呼び込む狙いです。
2023年2月中旬に銘柄評価委員会が設置されました。上場企業を対象に2023年7月ごろから募集し、2024年2月にSX銘柄の社名を公表する計画です。気候変動や人権など持続的な重要課題を経営に取り込み、企業価値向上のための戦略を策定・実行しているかが審査のポイントになります。
企業側は事業変革や人的資本投資などの対策や、投資家と建設的に対話できる体制が求められます。投資家の期待リターンである資本コストを意識した経営や充実した英文開示、PBR(株価純資産倍率)1倍以上なども審査要件に入るとみられます。経産省などは過去にも「健康経営」や「なでしこ」などの銘柄選定制度を設けてきました。今回はSX銘柄を国内外に大々的にアピールする予定です。東証や証券会社などと一緒に海外投資家向けセミナーでも紹介するもようです。
SX銘柄に15社選定
経済産業省と東京証券取引所(東証)は2024年4月23日、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)銘柄2024」の選定企業15社を公表しました。今回が初めての選定で、5月24日に都内で「SXシンポジウム」が開催され、表彰式などが行われました。多様なサステナビリティ課題が顕在化するなか、それをビジネスチャンスとして経営に織り込み、稼ぐ力を維持、強化していくことの重要性について話し合われました。
狙いは事業変革の促進
経済産業省は、SXを「企業が持続的に成長原資を生み出し、企業価値を高めるべく(「企業のサステナビリティ」の向上)、社会のサステナビリティ課題に由来する中長期的なリスクや事業機会を踏まえ(「社会のサステナビリティ」との同期化)、資本効率性を意識した経営・事業変革を投資家等との間の建設的な対話を通じて実行すること」と定義しています。
気候変動、生物多様性、人権問題、経済安全保障など、今世界は多様なサステナビリティ課題に直面しており、世界経済の不確実性は一段と高まっています。こうしたサステナビリティ課題はリスクであると同時に、ビジネスチャンスでもあります。そこで、企業は社会のサステナビリティ課題を経営に織り込むことを通じて、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)を維持・強化していくことが求められます。
つまり、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化することがSXであり、企業がそれに必要な経営・事業変革を行い、長期的かつ持続的な価値向上を図っていくことです。社会と企業のサステナビリティの同期化には、企業と投資家、取引先などとの建設的な対話・エンゲージメントによって、企業としての価値創造ストーリーを協創し、実行することが必要です。
日本企業の自己資本利益率(ROE)は一定の改善を見せてきていますが、欧米に比較して水をあけられています。また株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業の割合も、欧米に比較して高いと言えます。そこで経済産業省では2014年に「持続的成長へのインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書、通称「伊藤レポート」を公表して以降、伊藤レポートを通じ、一貫して稼ぐ力や企業価値の向上に向け、投資家との対話・エンゲージメントや情報開示、ESG(環境・社会・企業統治)の視点の重要性などを訴えてきました。2021年5月には企業、投資家、有識者からなる「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」を立ち上げ、2022年8月に「SX版伊藤レポート(伊藤レポート3.0)」及び「価値協創ガイダンス2.0」をとりまとめ、公表しました。
SX銘柄制度は、これまでの取組を加速するため、価値創造経営を進める日本企業の象徴としてSX銘柄選定企業を示すことで、日本企業に対する国内外の投資家による再評価を促すきっかけにすると同時に、長期的かつ持続的な企業価値向上に向けた経営・事業変革の実行を日本企業全体に促すことを狙い、経済産業省と東証が創設しました。
SX銘柄の選定にあたり、東証上場企業約3800社を対象に、PBR1倍以上を必須条件にして応募を募りました。応募企業159社の中から、SX銘柄評価委員会(委員長:伊藤邦雄一橋大学CFO教育研究センター長)が審査をして、15社が選ばれましたが、皆さんどう思われますか。