ゲームの理論を探る(その7)-男女の争いが示す日本の関税問題対応

男女の争い

 囚人のジレンマは、「ナッシュ均衡」と「パレート最適」が別々に存在するケースでした。今回の男女の争いは複数のナッシュ均衡が現れるケースとなっています。

 男性と女性がいます。デートに行きたいが、行きたい場所が異なります。男性は野球、女性は買い物に行きたいと思っています。

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 まず、利得表ですが、

・ 互いの思惑が外れてデートが成立しない場合には(0、0)とします。
・ デートが成立する場合で、野球・野球、買い物・買い物の場合で、正の利得が発生します。(2、1)または(1、2)です。行きたい方に行ける時には2、違う方には1を入れます。

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 最適反応ですが、まず男の人の目線にたちますと、

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・ 女の人が野球を選んだ場合には、男の人は2と0を比べ、2の野球を選びます。
・ 女の人が買い物を選んだ場合には、男の人は0と1を比べ、1の買い物を選びます。

 次に女の人の目線に立ちます。

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・ 男の人が野球選んだ場合には、女の人は1と0を比べ、1の野球を選びます。
・ 男の人が買い物を選んだ場合には、女の人は0と2を比べ、2の買い物を選びます。

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 そうすると、最適反応の組み合わせであるナッシュ均衡は2ケ所できます。それは左上の(2、1)と右下の(1、2)です。




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 それではパレート改善はあるかですが、左下(0、0)から(2、1)はOKです。左下の(0、0)から(1、2)もOKです。また、右上の(0、0)から(2、1)もOKですし、右上の(0、0)から(1、2)もOKです。

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 しかし、ナッシュ均衡の場、左上の(2、1)と右下の(1、2)からのパレート改善はできませんので、ナッシュ均衡がそのままパレート最適となります。すなわち、このケースではナッシュ均衡とパレート最適が一致しています。


 このように、男性は野球が好きなので、できれば野球に行きたいと考えています。女性は買い物が好きなので、できれば買い物に行きたいと考えています。しかし、別々のところに行くと、利得はゼロすなわちデートは不成立という状況を表しています。男女の争いとか言ってるくせに惚気の問題となっています。

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 この例では、ナッシュ均衡の場所が2つ存在しました。その各々について違いを考えてみます。相手の戦略に対して最適反応した時の利得の組に注意して見てみます。

 まず、(野球、野球)から考えてみましょう。女性が野球から戦略を変えないとした時、男性は野球から買い物に戦略を変えると思いますか? 逆に、男性が野球から戦略を変えないとした時、女性は野球から買い物に戦略を変えると思いますか? それはあり得ません。

 もう一方の(買い物、買い物)についても確認してみましょう。女性が買い物から変えないなら、男性も買い物から変えません。なぜなら変えればデートは成立しないからです。男性が買い物から変えないなら、女性も買い物から変えません。

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 従って、このゲームにおけるナッシュ均衡は(野球、野球)と(買い物、買い物)ということになります。ナッシュ均衡が2つできたことになります。このようにナッシュ均衡は複数あることもあります。一度どちらかに決まれば、相手が共に意見を変えない限り、自分一人が自分の意見を通すというインセンティブが働かなくなるのが特徴です。

 確かに、一旦決まってしまえば、仮に自分のベストチョイスでなくても、二人で決定したベストチョイスであれば変更する理由はありません。このように関係者が納得する結論がナッシュ均衡です。

 もしこの状況に一度なったとしたら、どちらか片方が他の選択肢を選ばないほうがよくなるということです。つまり、一旦買い物に行くと決まったら、男性はしぶしぶ行くことになっても、「やっぱり野球がいい。」と言ってしまってはいけません。そんなことをすると、どこにも行かないという最悪な状況になってしまう可能性があるからです。

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 この男女の争いは、トランプ米国大統領の日本に対する自動車25%追加関税や24%相互関税設定に対し、日本国がどの様な立場を取るのかを考える場合に非常に参考になる様に思えます。

 日本は第二次世界大戦以降安全保障面で米国の傘の下で暮らして来ました。中国や欧州は安全保障面で敵対あるいは対等の立場にあるので、米国の関税要求に対し報復関税に打って出るのは戦略として十分に考えられます。しかし、日本の場合には報復関税に出ることは男女の争いが示すゲームの理論からも想定できるように好ましい戦略ではありません。

 ここは暫くは米国の要求に応じて穏やかに外交を通して交渉していく以外に手はないのではないでしょうか。皆さんはどう思われますか。



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