ゲームの理論を探る(その8)…価格維持と値下げ論争に必須のゲーム理論
寡占市場とゲーム理論

寡占市場とは供給者が少数である市場であるので、お互いの行動が影響しあいます。このことを戦略的相互依存性といいます。ライバルの出方によって自社の利益も変わってくるので、情報が不確実となります。情報が不確実になりますと、特定ライバル企業の行動を予測しながら戦略を考えることになりゲーム理論が成り立ちます。
自社利益の最大化だけを考えるのが非協力ゲームですが、この非協力ゲームの戦略がナッシュ均衡に相当します。つまり自社の利益を最大まで維持する戦略がナッシュ均衡となると解釈できます。
ナッシュ均衡
ナッシュ均衡とは、非協力ゲームにおいてゲームの参加者全員が、相手の戦略に対して最適な戦略を採用している状態をいいます。均衡とは落ち着いていて変化が無い状態をいいます。自社にとって損失が一番少ない戦略をとる、が優先されます。
ナッシュ均衡は表を使って説明できます。この表は利得表と言い、複雑に3〜4社が絡むと複雑になるので、分かりやすくするため2社のみで説明していきます
1. 囚人のジレンマとなるケース

利得表
利得表には条件があります。
・ 供給者が少数である寡占市場である事
・ お互いが影響を及ぼし合う関係(戦略的相互依存性)にあること
・ 利潤は他社の出方によって変わってくる
すなわち、利得表とは自社とライバルの戦略全ての組み合わせで予想される損益を数字化した表です。1例を示すと下記となります。
・ 両社が価格維持政策を採った場合 (0、0)
・ 両社が値下げ政策を採った場合 (-5、-5)
・ 両社の戦略が異なる場合 価格維持側が不利で-8、値下げ側が有利で+5 (-8、+5)
企業A側に立って最適反応を考えます。

・ 企業BがB1の価格維持政策を採った場合、企業AはA1の価格維持で0、A2の値下げで+5となりますので、値下げ+5を採ります。
・ 企業BがB2の値下げ政策を採った場合、企業AはA1の価格維持で-8、A2の値下げで-5となり、値下げ-5を採ります。
企業B側に立って最適反応を考えます。

・ 企業AがA1の価格維持政策を採った場合、企業BはB1の価格維持で0、B2の値下げで+5で、値下げ+5を採ります。
・ 企業AがA2の値下げ政策を採った場合、企業BはB1の価格維持で-8、B2の値下げで-5で、値下げ-5を採ります。
ナッシュ均衡は両者値下げの(-5、-5)の場所に現れます。このパターンは囚人のジレンマと同じで、相手の情報さえ得られれば互いに価格維持の場所(0、0)へパレート改善できます。
結論として、寡占市場では、価格維持戦略を採るのか値下げ戦略を採るのかの判断がしばしば求められます。通常は利益を確保するために価格維持戦略を採りたいところですが、相手が値下げをすると考えると、当方もそれに呼応して値下げをせざるを得ない。結局ナッシュ均衡となり囚人のジレンマに陥ります。その場合、相手がどうも価格維持で行くと言う情報が入れば、当方もそれに合わせて価格維持にすることができます。
2. ナッシュ均衡が2ケ所に現れるケース
利得表
・ 両社が価格維持政策を採った場合 (0、0)
・ 両社が値下げ政策を採った場合 (-5、-5)
・ 両社の戦略が異なる場合 価格維持側が不利で-2、値下げ側が有利で+5 (-2、+5)
企業A側に立って最適反応を考えます。

・ 企業BがB1の価格維持政策を採った場合、企業AはA1価格の維持0、A2の値下げ+5で、値下げ+5を採る。
・ 企業BがB2の値下げ政策を採った場合、企業AはA1の価格維持で-2、A2の値下げ-5で、価格維持-2を採る。
企業B側に立って最適反応を考えます。

・ 企業AがA1の価格維持政策を採った場合、企業BはB1の価格維持で0、B2の値下げで+5で、値下げ+5を採る。
・ 企業AがA2の値下げ政策を採った場合、企業BはB1の価格維持で-2、B2の値下げで-5で、価格維持-2を採る。
・ ナッシュ均衡は(-2、+5)、(+5、-2)の二つの場所に現れます。
・ パレート改善はできます。(-5、-5)から(0、0)パレート改善です。
・ パレート最適は(0、0)、(-2、+5)、(+5、-2)の3ケ所です。
A1価格維持とB1価格維持の時はパレート最適
A企業がA1(価格維持)を採用、B企業もB1(価格維持)を採用した時(0、0)は、パレート最適で、お互いの損失は無いので現状維持になります。
A1価格維持とB2値下げの時はナッシュ均衡
企業AがA2(値下げ)を採用した時、 企業Bの利得は価格維持で-2となり、企業Bの損失が大きいのですが、企業BもB2(値下げ)を採用すると-5の状態になり、 企業Bの損失は-2から-5と悪化するので、A2とB1のままの方が良くナッシュ均衡が成立します。
A2値下げとB1価格維持の時もナッシュ均衡
企業BがB2(値下げ)を採用した時、 企業Aの利得は価格維持で-2となり、企業Aの損失が大きいのですが、企業AもA2(値下げ)を採用すると-5の状態になり、 企業Aの損失は-2から-5と悪化するので、B2とA1のままの方が良くナッシュ均衡が成立します。
本例は相手が値下げをしても、こちらは価格維持を押し通せる場合があることを示しています。例えば、自社の商品には他社に比べ、品質が優れているとか、他者にはない機能を持つとか、取り柄を有する場合がこの例に相当します。このことは相手側にも同じことが言えますので、その時々で利得表を見て判断せざるを得ません。みなさんどう思われますか。