(その2)…環境SciLets事業アンケート調査の意味を考える

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 文科省の運営交付金で2016年~2020年の5年間三重大学環境SciLets事業が展開されました。私も、コーディネーターの役割で2016年6月から本事業に参加しました。

 従来、大学が実施するビデオ講座の多くは、学生を対象とするものが多いのですが、今回は主たる対象者を地域の社会人として展開するのが、本事業の大きな特徴となっていました。そして、私の担当する最初の仕事は、ビデオ講座に参加して頂く地域の社会人を探し出して来ることでした。



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 私は当時北伊勢上野信用金庫のコラボ産学官という産学官組織の事務局長を兼ねていたという立場を利用して、三重県中小企業家同友会450社、上野商工会議所249社、北伊勢上野信用金庫・コラボ産学官三重支部116社、の3グループに所属する中小企業を対象にビデオ講座の参加募集活動を実施することでした。

 まず、これら地域社会人を対象にアンケート調査を行い、彼らが欲しているビデオ講座とはどのようなものろかを知ることから始めることになりました。しかし、その時に、大学のやり方と私自身の考え方に少しずれがあるなと感じていました。それは、このアンケート調査結果に基づき、地域の社会人に適したビデオ講座はどのようなものであり、その要望を叶えるべくビデオ講座内容および配給システムを構築するのが一般的な進め方であるはずですが、私がアンケート調査を始めた時には、すでにビデオ講座システムは大部分出来上がっていました。結局、私のやるアンケート調査は、運営交付金申請書の中に1項目としてアンケート調査の実施をうたっていたので、やらざるを得なかったということ、また、アンケート調査結果をすでに出来上がっているビデオ講座システムに合致するように後付けするという意味合いが強いものでした。

 今回は、このような矛盾を感じながらアンケート調査を実施しましたが、その結果はどうなったのかを検証してみたいと思います。

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 アンケート調査の基本手順は、下に示しますように、

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Step1. 目的・目標を決める
Step2. 調査方法を決める
Step3. 質問を作成する
Step4. アンケート調査を実施する
Step5. 集計し、目的・目標に対する振り返りをまとめる

が一般的です。

 以下、これらの手順に沿って進めた概要を述べます。

1. 目的・目標を決める

<基本事項>
 アンケート調査を行うときには、最終的に何をしたいのかという目的・目標と、それを達成するために必要な情報は何かをしっかりと把握しておく必要があります。

<実績>
 アンケート調査の目的は、
(1) 三重大学サテライト教室で環境問題を扱うことの意義についてどう思うか。
(2) 三重大学サテライト教室の特色とは何か。
(3) 三重大学サテライト教室での授業をどのように展開すれば良いのか。
(4) 三重大学サテライト教室では誰を対象として授業を展開するのか。
の4点を設定しました。

2. 調査方法を決める

<基本事項>
 調査方法としては、「どれが一番人気か」「それを最も好むのはどの年代か」などの数値データを求める定量調査と、「なぜそれが一番人気なのか」「なぜ数ある中からそれを選ぶのか」などの根拠や理由を追及する定性調査があります。

<実績>
 今回の質問は、添付したアンケート調査項目から判りますように、根拠や理由を追及する定性調査を選択しました。

3. 質問を作成する

<基本事項>
 定量調査の場合の質問は「はい or いいえ」「A or B or C」という形で回答してもらいます。定性調査の場合の質問は「自由回答や複数回答から一つを選択する方式」で回答してもらいます。

<実績>
 各質問に複数の回答を準備し、その中から一つを選択してもらう方式となっています。また、最後に自由回答欄も設けています。

4. アンケート調査を実施する

<基本事項>
 アンケート調査を実施する際には、調査を行う担当者を決め、事前にしっかりと打合せをしておく必要があります。街頭調査などを短期間でおこなう場合には、大勢のスタッフが必要となります。一方、インターネット上での調査など数週間かかるアンケートの場合は、日々の集計データをしっかりと管理する必要があります。

<実績>
 アンケート調査は、三重県中小企業家同友会450社、上野商工会議所249社、北伊勢上野信用金庫・コラボ産学官三重支部116社、の3グループに所属する中小企業を対象に実施しました。いずれもインターネット上で実施しました。

(1) 三重県中小企業家同友会を対象とした理由は、同会は三重県下の四日市、伊賀、桑名、伊勢志摩、東紀州の5箇所に拠点を持つことで、4地域の中小企業から回答を得られることを期待しました。
(2) 上野商工会議所は、伊賀市に拠点が置かれ、伊賀市の中小企業の多くが会員として登録していることから対象としました。
(3) また、北伊勢上野信用金庫・コラボ産学官三重支部は、四日市市と伊賀市の中小企業を会員として多く登録していることによります。

 なお、伊賀地区のアンケート調査で、中小企業家同友会と上野商工会議所とコラボ産学官三重支部の3機関において、会員の所属が重複する場合には、上野商工会議所に所属するものとして取り扱いました。また、四日市地区で、中小企業家同友会とコラボ産学官三重支部で会員の所属が重複する場合は、コラボ産学官三重支部に所属するものとして取り扱いました。

 アンケートの回収率については、三重県中小企業家同友会は、450社中得られた回答は9社で回収率は2%でした。上野商工会議所は、249社中(工業部会186社、食品工業部会63社)得られた回答は34社で回収率は13.7%でした。また、北伊勢上野信用金庫・コラボ産学官三重支部は、116社中得られた回答は20社で回収率は17.2%でした。

5. 集計し、目的・目標に対する振り返りをおこなう

<基本事項>
 最初に掲げた「何のための調査か」が果たされているのか、描いていた通りの結果は得られたのか、などの検証が必要です。実施期間や対象人数がクリアされたのかなども検証し、次に行うアンケート調査に反映させて、マーケティングの戦略強化に繫げます、

<実績>
アンケート調査結果は別紙に示す通りで、設問は1~12まであります。

(1) 三重大学サテライト教室で環境問題を扱うことの意義についてどう思うか。

 三重大学の基本目標には、「三重から世界へ:地域に根ざし世界に誇れる独自性豊かな教育・研究成果を生み出す~人と自然の調和・共生の中で~」が謳われ、国際環境教育センターは、世界一の「環境先進大学」社会的責任(USR)を果たすことをこれまで標榜してきました。今回、三重大学国際環境教育研究センターが「科学的地域環境人材育成」という目標の下にサテライト教室を設けることを、地域の皆様がどのように賛同してくれるのか、これはアンケート調査に当って最も大きな関心事でした。

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 まず、サテライト教室の生徒募集は、三重大学の地域貢献という基本的な立場からも、地域の大企業を対象とするのではなく、中小企業であることをアピールしました。勿論、大企業については、生徒の派遣という立場ではなく、講師を送る側として本事業に協力して頂きたいということは、申し上げてきました。

 設問01~04からも判ります様に、環境問題は、地域の中小企業にとって、これから事業を展開して行く上で、欠く事のできない問題であることは、対面調査をさせて頂きながら、各中小企業が十分に認識されているという印象を持ちました。具体的には、産業廃棄物(分別、減量化等)やエネルギー使用管理(省エネ設備の導入・活動の実施)、化学物質等(毒劇物、有機溶剤)の使用と管理であり、環境マネジメントシステム(ISO14000、M-EMS:三重阪EMS)の運用を多くの中小企業が実施しており、関心を寄せていることからも判ります。また、三重大学が環境先進大学として、色々と活動して来ていることも理解して頂き、今回の事業に対し、力強い支援を頂くことができたと考えています。

(2) 三重大学サテライト教室の特色とは何か

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 サテライト授業は既に多くの大学で進められていますが、その中で今回三重大学のサテライト授業には、どの様な特色が望まれているのかについても調査を進めました。これについては、既に三重大学との間で共同研究や異業種・異分野交流(研究交流)等を進めておられる中小企業にあっては、一般的な講義受講と同時に、On the Job Trainingの一環として、若手社員の人材育成と企業の技術開発をセットにして進めて欲しいという企業が多いことがわかりました。

 設問04~07からも判ります様に、多くの企業が環境に関する社内教育を重視していることから、今回の事業では、他の大学では見られない特色として展開するためにも、講義とOn the Job Trainingのセットで進めるのが良いと考えられます。

(3) 三重大学サテライト教室での授業をどのように展開すれば良いのか。

地域の中小企業の皆様にとって、サテライト教室をどの様な形態でやるのが最も適しているのか、についても色々と聞き取りを行ないました。

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授業形態としては、
・仕事中に教室を開講して授業を行うのか、仕事が終了した夜間に行うのか。
・授業の形態としては、教員による対面授業か、ビデオ授業なのか、または、インターネットを介したe-learning方式とするのか。
など、色々な選択肢が考えられます。

 設問08~09からも判ります様に、まず、中小企業の立場からすると、仕事中に社員をサテライト教室に送り込むほどの時間的余裕がないというのが実情です。しかし、受講者側からすると、見える化の観点からも講師の顔を見ながらの講義でないと面白くないという意見も多くみられました。

 結論からすると、自分の時間を作って学ぶことのできるインターネットを介したe-learningが適していると思われます。しかし、全ての授業をe-learningというのも、著作権等の問題から難しく、当面は、授業はDVDの配布によるビデオと理解力テストをe-learningという組合せでスタートさせるのが良いと思われます。また、教員の顔を見たいという、授業の見える化に対する要望も強いことから、最初と中間と最後の3回程は集合形式のセミナーを開催して、生徒の質問、意見交換の場を設け、生徒の考えの発信の場を提供することも必要と考えられます。

(4) 三重大学サテライト教室では誰を対象として授業を展開するのか。

 設問07、設問10から判ります様に、今回の事業では、「科学的地域環境」という大きなジャンルを設定し、そこに、環境問題と環境評価法、エネルギー技術、環境配慮技術、環境管理・教育啓発、環境関連法・行政、大気/水・食の健康リスク、自然環境保護・生物多様性、気候変動問題の基礎8分野を1分野90分の講義で展開しています。従って、各分野は概論レベルの内容とならざるを得ません。これを欲する生徒となると、中小企業の新入社員で文系・理系を問わないで受講できる社員であることをアピールしたいと思います。。

 また、行政の本事業への参加という観点から、高校の教師や高校生への展開も考える必要があります。これは市町の行政との連携の中で進めるものとなります。最近では、大学の授業を高校生に紹介するという試みがありますが、本授業もこれを行う1つの機会とも捉えられると考えられます。

 すでに大学教員の間ではビデオ講座の内容が固まっていて、一方で、地域の社会人を対象としてどのようなビデオ講座を欲しますかというアンケート調査を実施することの意味は分からずまま、調査は終了しました。アンケート調査結果は、ビデオ講座の主旨と合致したものであり、ほっとしたのを覚えています。

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