環境問題の社会貢献活動CSRからビジネス活動展開への背景

 環境問題は、企業の経済活動の結果として起こります。当初、国は企業にピグー税を課して、企業が環境問題を起こしていることを自ら認識できるように仕向けてきました。企業の方も、十分に認識していますということを外部に認知してもらうべく、社会貢献活動を行うようになりました。これが企業のCSR活動と言われるものです。しかし、CSR活動では、企業にとってそのためのコストは持ち出しになるわけで、環境に対する十分な対策を取るところまではなかなか浸透しませんでした。

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 そこで環境問題をビジネスとして扱おうということになって行きました。すなわち、世界の投資ファンドや機関投資家が、投資先を選定するにあたり、投資先企業がどの程度環境問題に対して真剣に取り組んでいるかを評価し、基準に合致した企業を対象に投資を行なうようになりました。これがESG投資と呼ばれるものです。

 ただ、この段階で動けるのは大手金融機関だけであり、地域の金融機関ではなかなか動けませんでした。その後、地域の金融機関でも何とかなるようにということで、持続可能な開発というSDGsの概念が生まれてきました。

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 今回は、2018年4月に北伊勢上野信用金庫コラボ産学官三重支部でこの辺状況について話題提供しましたので、その内容を紹介します。

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1. 表 紙

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 今日は話題提供ということで、最近話題となっている環境問題について話をします。環境問題は現在、社会貢献活動CSRからビジネス活動へと大きく変貌を遂げています。これはどういうことでしょうか。





2. CSR活動からビジネス活動へ

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 これまで環境は企業においては、社会貢献のためにやっておかなければという感覚でお付き合いしてきたものです。例えば、カーボンオフセット活動というのは、まさにこのCSR活動の最たるもので、儲けに繋がりません。しかし、ここに来て流れが変わってきました。

 地球の環境問題は世界中で守る必要があるとか、持続可能な将来を実現するには企業は環境問題をビジネスとして扱う必要がある、という状況となってきました。今回は、どうしてそういう流れとなったのかを、少しコーディネーターの立場から説明したいと思います。

3. 地球環境の現状

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 話は地球が現在どういう状況になっているのか、これからどうなるのか、ということから始める必要があります。皆さん、この写真は我々が住む地球です。地球が誕生してから46億年が経過しています。銀河系というとてつもなく大きな宇宙空間があり、その中に小さな太陽系があります。太陽という光り輝く恒星の周りに、8つの惑星があって、その惑星の1つが地球です。この写真は1972年に撮影されたものですが、まだまだ綺麗です。ところが、この地球に今大変なことが起こりつつあるのです。

4. 地球温暖化のデータ

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 これは地球の北半球の気温を測定したデータです。西暦200年からのデータがあり、2018年の現在はこの円の部分です。この赤い円の中を見て下さい。今までの温度変化とは全く違う変化をしていることがわかります。急激に温度が上昇しています。今、世の中で言っている地球温暖化とは、このことを言うのです。



5. 地球温暖化の原因

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 どうしてこの様に地球温暖化が進んだのでしょうか。これは主として二酸化炭素の排出によると言われています。今から200年ほど前の1800年に産業革命が起こりました。以降、産業が発達しまして、地球上の工場という工場から二酸化炭素が排出されました。そしてこの様に、地球を囲んだ大気圏の外側に、二酸化炭素の層ができてしまいました。

 太陽からの赤外線が地球を暖めた後、地球から赤外線が放射されます。放射された赤外線は、昔は宇宙に戻って行きましたが、現在は宇宙に戻ることができず、この二酸化炭素の層に吸収されます。すると、二酸化炭素の層が赤外線をこの大気圏内に放射し、これがまた地球に吸収され、地球を温めます。これが地球温暖化のメカニズムです。

6. 国連発表の地球温暖化の今後の試算

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 ここで1つ、国連が発表したちょっと恐ろしいデータを紹介します。この図は、横軸に年度を、縦軸に二酸化炭素の排出量を示しています。この横のラインから下の白い部分は、地球の二酸化炭素の自然吸収量を示しています。地球が何をしないでも吸収する二酸化炭素の量です。皆さん、地球には森がありますが、光合成をする際に森は二酸化炭素を吸収します。また、地球には海がありますが、大気と海の間では、常に二酸化炭素のやり取りが行われています。

 1800年に、ヨーロッパに産業革命が起ると、多くの工場が二酸化炭素を吐き出す様になった結果、どんどん二酸化炭素の量は増えて行きます。現在は2018年ですから、地球の上にはこの分だけ二酸化炭素が余分にあるわけです。これだけの面積の部分の二酸化炭素量で地球は+1℃高くなりました。さて、このまま地球上の人々が、今までと同じ生活を続けるとどうなるのか、地球の温度はどんどん高くなり、+2℃に近づいて行きます。皆さん、温度が1℃から2℃位上昇しても、何もないと思っていませんか。1℃~2℃上昇することで、大きな問題が発生するのです。

7. 温度上昇のもたらす異常現象

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 地球の温度が2℃上昇すると何が起こるのか?この図が示します様に、海のすべての海流は繋がっていて、ひとつの大きなメビウスの輪のようになっています。この輪は「海洋コンベアベルト」と呼ばれます。図の輪の赤い部分は、暖かい海面を表しています。良く知られているのは、米国の東海岸に沿って流れるメキシコ湾流です。

 メキシコ湾流からもたらされる熱がヨーロッパへと運ばれるお陰で、パリやロンドンでは、ほぼ同じ緯度にあるカナダのモントリオールやアメリカのノースダコタ州よりずっと暖かくなります。スペインのマドリッドとアメリカのニューヨーク市の緯度は同じですが、マドリッドの方がずっと暖かいのです。ところが、地球の温度が1℃~2℃上昇すると、この海洋コンベアベルトが乱れて、異常現象が次々と現れます。

8. 気温上昇で表面化する8つのリスク

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 地球の温度が2℃まで上がることよるリスクが8つあります。
1つ目は、高潮などの海面上昇による陸地の消失問題。
2つ目は、内陸部での河川の氾濫。
3つ目は、異常気象によるインフラ停止。
4つ目は、熱波による死亡や疾病。
5つ目は、干ばつによる食料不足。
6つ目は、水資源不足。
7つ目は、観光サービスの消失。
8つ目は、生物多様性の崩壊です。

9. 持続可能な開発SDGs

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 これに対し、国連の場においても、この問題を放っておいた訳ではありません。25年前の1995年には、第1回目COP、すなわち、気候変動枠組み条約会議が開催されています。1997年のCOP3では「京都議定書」が、最近の2015年には、COP21で、「パリ協定」が採択されました。そして、同じ年の2015年には、パリ協定を受けてSDGsすなわち「持続可能な開発目標」がスタートしました。

10. COP21パリ協定の内容

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 パリ協定の内容は次の通りです。「世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える」に向けて、世界全体で今世紀末後半には、人間活動による温室効果ガス排出量を実質的にゼロにして行く方向を約束するというものです。





11. 脱炭素と炭素低減の違い

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 ここからは、環境はCSR活動ではなく、ビジネス活動であるという話に移ります。この図は、このままだと地球の温度上昇は2℃を超えることを示しています。これを阻止するには、どうしたら良いのでしょうか。 まず、この2本のラインは二酸化炭素の排出低減を示すものです。しかし、100年は掛かります。現在、世界はこのラインを目標に動いていまして、2050年までに地球の温度を元に戻そうと、それには二酸化炭素の排出低減ではなくて脱炭素であると言っているのです。

12. 炭素低減から脱炭素への切り替え

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 パリ協定では、地球の温暖化を+2℃までに抑えなさい、と合意しました。この図は、現状のままでは+2℃に達するのは時間の問題で、このままだとあと25年ですぐに二酸化炭素の排出上限に達し、地球温度が2℃上昇することを示しています。この二酸化炭素の発生原因は、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料です。化石燃料は今の地球上にはまだ沢山埋もれていますが、二酸化炭素をこの上限に抑えるには、現在残っている部分の1/3しか使用できず、あとの2/3は使用できないと言っています。この様に脱炭素を実現するには、化石燃料を効率良く使用する二酸化炭素排出低減ではもはや駄目で、二酸化炭素を使わない脱炭素を目指すべきと言っています。

13. 日本の周回遅れ

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 2015年に安倍首相が、発展途上国訪問の際に、日本は高効率石炭火力発電所を積極的に推進しているとアピールしました。ところが、日本はどうして19世紀のテクノロジーに時間と努力と頭脳を注ぎ込むのか、と欧米の投資家から強烈に非難されました。日本は何をとぼけたことを言っているのか。日本は完全に環境に関しては周回遅れだ、とまで協力なバッシングを受けました。


14. ESG投資

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 SDGsは2015年国連サミットで取り上げられた持続可能な開発目標であることを話しました。SDGsでは、17の開発目標が掲げられていますが、中でもESG投資が大きな話題になっています。すなわち、脱炭素をキーワードに世界の投資家がマネーを動かし始めています。投資家は世界の企業の中で、その企業が脱炭素ということで動いているのか。企業が化石燃料に依存しているのかどうかを、企業の価値判断の新しい物差しとしています。

15. 企業としての取り組み例

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 リコーは電気自動車の安全運転を支える車載用ステレオカメラを生産しています。住友化学は、環境にやさしい農薬を研究しています。また、戸田建設は洋上発電に力を入れています。LIXILは発展途上国向けのトイレを生産しています。




16. 国としての取り組み例

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 国レベルでの話をします。アブダビという国がありますが、砂漠に中国製の太陽光パネルを設置し、何と1kwhr当り2.6円で電気を売っています。日本は1kwhr当り12.6円ですから、1/6の安さです。また、ヨーロッパのドイツでは、電気自動車に切り換えようとの動きが加速しています。



17. おわりに
 今日は、皆さんには、環境ビジネスが大きな唸りを上げて世界を駆け巡っているという話をしました。まだ日本では、一部の大企業がこの世界の動きに乗り遅れまいと頑張っています。しかし、いずれ中小企業までその余波が襲ってきますので、今から心して対応して頂きたいと思います。



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