(その2)…小水力発電工事を襲う規制の壁

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 馬野川小水力発電所の建設については、私自身、三重大学および北伊勢上野信用金庫の産学連携コーディネーターという立場で、フィージビリスタディ、技術開発、事業計画、資金調達、建設工事と全般に亘り関与してきました。

 工事完了を告げるニュース配信が多くの新聞社からありましたので、内容を最も上手く伝える記事(伊賀タウン情報ユー)を以下に紹介します。

 「大山田村史」によると、かつて同地にあった伊賀馬野川水電は、100年前の1919年から水力約80kwの水車で発電していました。当時、近隣の3村(布引、阿波、山田)に電力を供給していました。

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 再生可能エネルギー分野への事業参入を模索していた地元の土木建設会社「マツザキ「が小水力発電所の適地を探す中で、旧水電の歴史を知り、2013年に復活プロジェクトを発案しました。三重大学と発電システムの共同研究や、行政機関との調整などを経て、2018年6月に着工し、約1年の工期で完成しました。

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 復活した発電所は、標高約460mの取水口から全長約1km、直径約50cmの導水管を経て、約77m下にある発電所に水を流し込み、水車を回すことで電気を生み出す仕組みです。年間発電量は一般家庭260軒分に相当する95万kwhで、中部電力に売電し、総事業費3億7000万円を約18年かけて返済する他、地域の環境整備にも充てることになっています。運転は子会社の「みえ里山エネルギー」が担っています。

 しかし、発電所の建設においては色々な規制との戦いの場でもありました。以下にその規制とそれらをどの様にクリアして行ったかを今回は紹介したいと思います。

(1) 国の一級河川への構築物設置に対する規制

 馬野川は国の一級河川です。従って、川岸や堤防に構築物を設置することは禁じられています。但し、市民生活に必要な橋などは除外されます。今回の事業では、発電所は一応河川の範囲外に設置することで、了解が得られましたが、河川の水を取り出す堰は規制の対象となりました。従って、堰の位置を一級河川の始まる限界の位置まで、上流に遡らなければなりませんでした。100年前にあった堰の位置では、現在は一級河川内に位置するという判断でした。

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(2) 天然記念物の生息に関する規制

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 馬野川周辺は国の天然記念物オオサンショウウオの生息区域に入っていました。その区域に発電所を建設することになると、天然記念物保護団体の許可が必要となります。まずは、発電所が建設される川の領域にはオオサンショウウオが現在は生息していないことを示すために、専門家による調査を行ないました。そして、現状では生息していないことを確認しました。次に、建設側の姿勢としては、将来オオサンショウウオがこの領域に生息を始めたと仮定して、十分に生きて行けるように対策を講じておくことが求められました。この様な経緯で建設工事は了解されました。

(3) 国定公園内での建設に対する規制

 馬野川周辺は国定公園内にありました。その場合、国に発電所の建設工事の届け出が必要となります。これは届け出だけで済み、比較的楽でした。

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(4) 河川下流域の利用者への了解取得の規制(水利権)

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 発電所の上流に位置する堰で取り込んだ水を下流に放流します。従って、下流の田畑にはこの放流した水が流れて行き、発電に使った水を使うことになります。これについては、その旨、下流で農業を営むお百姓さんに断りをいれておかなければなりません。



(5) 山の所有者への土地利用に関する了解に関する規制(山林所有権)

 馬野川周辺の水管を通す土地の所有者への許可願いです。今回は、所有者が1名でしたので、しかも、発電所の復興に賛成を表明して頂いていたので、交渉は楽でした。以前見学させて頂いた奈良県のつくばね発電所の場合は、20名の地権者がみえて、交渉が難航し、了解が得られるのに2年ほどかかったと言う話を聞いていたので、本当に1人で助かりました。

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(6) 保安林に関する規制

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 勿論保安林を切り倒して発電所小屋や関連設備を設置することは出来ません。従って、保安林に掛かっていないことを示して、発電所を設置する届け出が必要となります。





(7) 環境問題に関する住民への説明責任に対する規制

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 環境破壊が云々される規制値レベルはずっと高い所にありますが、これらの事項を住民の方々に説明して、理解を得る様にしておかなければなりません。





 山間に設置される小水力発電所の建設は、多くの許認可が絡んでくるため、民間で進めるのは比較的敬遠される理由が判りました。今回は、環境整備を常に念頭に置いて慎重に進める必要があると強く感じました。



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