(その4)…馬野川小水力発電事業計画書 5、6

          馬野川小水力発電復活プロジェクト事業計画書

          閉管路による流れ込み式小水力発電設備の構築と
             地域振興(地方創生伊賀モデル)に関する取り組み

               5. 発電事業等の計画
               6. 地域活性化への効果
               

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                  平成29年5月

                  株式会社マツザキ

目  次
1. 事業名 1
2. 新規事業を行う動機 1
2.1 背景 1
2.2 事業開始当時の思い 1
2.3 現在の事業目的 2
3. 市場の動向 2
3.1 市場の規模・成長性 2
3.2 競合性 5
4. 事業経過 5
4.1 これまでの取組み 5
4.2 流量に関する概略検討 10
4.2.1 流量観測 10
4.2.2 発電利用可能流量 13
4.2.3 発電電力量と水量の関係 14
4.3 新導水路工法 18
4.3.1 未利用水活用の可能性 18
4.3.2 導水路の運用方法案 19
4.3.3 実証実験 19
4.3.4 実証実験結果 24
4.4 補助金等の活用 24
4.4.1 地域における再生可能エネルギー導入支援事業 24
4.4.2 平成26年度補正ものづくり・商業・サービス革新補助金 26
4.4.3 平成28年度水力発電事業化促進事業費補助金(水力発電事業性評価支援事業) 27
5. 発電事業等の計画 29
5.1 設備設計 29
5.1.1 水車機種と発電機の選定 29
5.1.2 土木・建築設計 32
5.2 事業評価 36
5.2.1 年間発電電力量の算定 .36
5.2.2 売電収益 46
5.2.3 建設コスト試算 46
5.2.4 定常的操業費 48
5.2.5 その他の費用 48
5.2.6 キャッシュフロー計算 49
5.2.7 事業実施会社の設立 54
5.3 事業リスク 55
5.4 事業実施スケジュール 56
6. 地域活性化への効果 57
6.1 当該地域の活性化 57
6.1.1 地域協議会の設置とその使命 57
6.1.2 事業スキーム 58
6.1.3 「緑の贈与」による出資スキーム 59
6.1.4 「資源リサイクル活動との連携」による出資スキームの検討 65
6.1.5 グリーンファンドの活用 72
6.2 他地域への波及、展開のポイント 73
6.2.1 「緑の贈与」の実現可能性 73
6.2.2 「資源リサイクル活動との連携」の実現可能性 75
6.2.3 「馬野川小水力発電とさるびの温泉復興による地域おこし」の実現可能性 76

5. 発電事業等の計画

5.1 設備設計

5.1.1 水車機種と発電機の選定

 水車の選定では、まず大まかな目安として、その水車が適用可能な流量と落差を2 次元で表した水車選定図を用いることで対象型式を絞り込むことになる。図5.1-1の水車選定図を用いて水車方式を仮決定する。

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               図5.1-1 水車選定図

想定落差(約 75m)と想定最大発電使用水量(0.40m3/s 程度)とを『緑色の矢印』で上図に示す。また、水車設計ポイントを最小発電使用水量0.08m3/s (最大使用水量の20%)とした場合の流量位置を青色破線矢印にて示す。
流量位置と有効落差位置の交点を含有する水車型式であれば、原則として適用が可能となることから当該地点に適用できる水車は次表のとおりとなる。

               表5.1-1 水車型式の特徴

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 一般河川からの取水による流れ込み式の小水力発電において、最も年間発電電力量が多くなるのは「運転時間を最大化できる」通年運転である。よって、各水車において河川の流量が少なくなった時(軽負荷時)でも通年運転できる(≒年間発電電力量が最大になる)場合を検討する。2014年6月からの馬野川での流量観測結果において最小流量は0.074(m3/s)であり、最大流量に対する割合は
0.074(m3/s)÷0.40(m3/s)×100 = 18.5% ≒ 20%
となる。概ね発電使用水量の上限値として設定した0.40(m3/s)の20%程度まで流量が低下しても運転が可能な水車を選定できれば通年運転が可能である。上表の中でこの条件を満たすのは、ペルトン水車、ターゴ水車、クロスフロー水車である。クロスフロー水車は最大効率点が他の2型式に比べて劣るのが一般的なので、ペルトン水車及びターゴ水車を優先して検討する。同一の国内メーカーのペルトン水車とターゴ水車の水車効率曲線及び比較表を下記に示す。

             表5.1-2 ペルトン水車とターゴ水車の比較

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 よって、経済性を考慮するとターゴ水車を選定するのが今回の現場には最も適していると判断した。

5.1.2 土木・建築設計
(1)  全体配置計画

 図5.1-2に設備全体の配置計画を、図5.1-3に現況写真を示す。

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              図5.1-2 設備配置計画(No Scale)

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              図5.1-3 現況写真

 発電所予定地下流約50mに簡易水道の浄水場があり、中部電力の送電線が引き込まれているので、この付近へ高圧連系をする想定で中部電力と電力協議の最中である。

(2)  取水施設

 旧発電所における取水口は流失しているため,旧取水堰位置より50m程度上流の普通河川内に新たに取水堰堤を設置する。(幅12.5m、高さ1.5mと想定)
 洪水時に取水口への土砂流入を防止するために,取水ダム左岸側に転倒式土砂吐ゲートを設置する。転倒式土砂吐ゲートは現地に電源が無いため,ダム水位をフロートにより感知して、出水時に自動転倒し排砂する構造等を採用する。また、取水口部を含めて左右岸に護岸工を設置する。
 形式は農業用水の取水で採用する固定堰を採用する。固定堰の長所と短所を以下に示す。
(長所)・取水量を確実に確保できる。
(短所)・洪水後の維持管理が常に伴う。
    ・河道内に断面阻害が生じる。
    ・施設の規模が大きくなる。
    ・洪水時の対応が必要となる。(土砂吐、堆砂)
    ・堰上げによる護岸の高さが大きくなる。

(3)  取水口

 左岸側に取水口を設置して,スクリーンと制水門(スライドゲート)を設ける。制水門(スライドゲート)は電源が無いため許可取水量を超過しない様、適正開度で固定して運用とする。また、制水門(スライドゲート)は洪水時の水路への土砂流入を防ぐために、取水口 水位をフロートにより感知して、自重で閉める構造等を採用する。

(4)  沈砂池
 取水した水に交じっている土砂等を導水路に入れる前に処理する必要があるので沈砂池を設ける。
 沈砂池には,維持流量放流のための開口部を設け、河川の維持流量を確保する。
 発電所トリップ時には,発電取水量分を余水吐から越流させて河川に戻す。
 沈砂池は水槽を兼ねるため必要な容量を確保する大きさとする。
 沈砂池にはスクリーンを設置して、木の葉等が導水管に流入するのを防止する。

 図5.1-4に取水施設~沈砂池までの概略図を示す。

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               図5.1-4 取水工~沈砂池概略図

(5)  導水管路・水圧管路

 導水管及び水圧管は共に管路(閉回路)を前提としている。ヘッドタンクを設けず全線圧力管となるので導水管、水圧管といった区別は必要なく、水利計算から求められる内圧に耐え得る管種を採用する必要が生じる。また、コスト削減のために管路の径を小さくし、一部負圧下での使用に耐え得る継手構造を持つことも要件となる。硬質塩化ビニル管やFRPM管等の各管材メーカーにヒアリング調査を実施したところ、負圧を前提とした管利用の実績がない、又は長期の継手性能が確約できない等の理由により、これまで想定してきた硬質塩化ビニル管やFRPM管は負圧下では採用できない。したがって、所要の要件を満足するポリエチレン管を採用することにした。ポリエチレン管は電気による融着継手を用いて管が一体化されるので、経年劣化による継手からの空気の混入がないことや、継手が一体化することによる耐震性能が優れる点(大規模地震時の安全性)が特徴である。また、ポリエチレン管は耐圧性能により複数の管種があるので、区間ごとに耐圧性能を満足する管種を採用することにした。
 
 水利計算により負圧が想定されない部分は、最も経済性のある硬質塩化ビニル管を採用することにした。図5.1-5、図5.1-6に管路計画図(平面図、縦断図)を示す。

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               図5.1-6 管路計画図(平面図)

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               図5.1-7 管路計画図(縦断図)

(6)  発電所建屋

 水車建屋の本体は既製品(ユニットタイプ)の上屋を設置することを基本とし、水車メーカーでの同規模・同型式の実績例を参考に水車・発電機とその廻りの配管を検討しレイアウトを作成した。その結果、水車と発電機設置スペースが半地下構造となった。レイアウトを基に既製品の上屋のサイズを決定し、実測図に再度配置して建屋周辺の土木構造物の計画を行った。土木構造物は国土交通省標準設計図集を参考に決定した。図5.1-8に水車建屋廻りの図面を図5.1-9、図5.1-10に建屋廻りの横断図を示す。

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                図5.1-8 建屋~放流工平面図

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                図5.1-9 建屋廻り横断図①

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                図5.1-10 建屋廻り横断図②

5.2 事業性評価

5.2.1 年間発電電力量の算定

 4.2.2項の発電利用可能流量の検討では実プラントの設備を念頭においたものではなく、一般的な設備構成に対応した検討であるため、より正確性を期するために5.1.1で決めた実プラントでの水車の仕様にて年間発電電力量を算定する。

 発電可能電力の算定は過去13年間で最も雨量が少なかった2014年6月から1年間実施した流量観測値で、水車が通年運転を可能とする最大使用水量を0.402(m3/sec) と仮定して算定する。ターゴ水車の軽負荷の下限は最大使用水力の20%なので、最小使用水量は0.402(m3/sec)×20(%) = 0.080(m3/sec) となる。

 これらの結果を基に2014年6月から1年間観測した実流量(維持流量は減算済み)から1日当たりの発電電力量を求める。この時、1日の平均実流量が0.402(m3/sec) を超える時は発電使用可能流量として最大値である0.402(m3/sec) を採用し、また0.080 (m3/sec) を下回る時は発電電力量を0(m3/sec) として計算する。この計算結果を365日分集計して年間の理論発電電力量を算定した。算出に用いた各種条件を表5.2-1に、算出結果を表5.2-2に示す。

              表5.2-1 年間発電電力量算定のための各種条件

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              表5.2-2 日別発電電力量と日別平均流量降順

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 以上の結果から、年間発電電力量は1,059,234(kWh)が導き出される。年間の稼働率を95%と見込むと1,059,234 (kWh)×95(%) = 1,006,272(kWh) ≒ 1,006,000(kWh) となり、この値が当地で1年間に実際に発電できる電力量となる。

 最大出力(kW)は9.802×h×Q×η= 9.802×68.7×0.402×0.805×0.920 ≒ 200(kW)となる。(各係数の算出根拠は表5.2-1年間発電電力量算定のための各種条件参照)また、年間理論発電電力量は 200(kW) × 24(h) × 365(日) = 1,752,000(kWh) となり、実稼働の想定値が1,006,000(kWh) なので、設備利用率は 1,006,000(kWh) ÷ 1,752,000(kWh) × 100 = 57.4%となる。

 参考値として、2015年6月から1年間の流量データを基に同様に算出すると、1,117,000(kWh)が年間発電電力量となる。

5.2.2 売電収益

 5.2.1で算出した年間発電電力量1,006,000(kWh) を現在の固定価格買取り制度により売電を行う(表5.2-3参照)と、年間の収入は1,006,000 (kWh)×34(円/kWh)×1.08 = 36,940 (千円) ≒ 36,000 (千円) となる。この結果を基に事業性の判断を行う。

          表5.2-3 固定価格買取り制度における調達価格と調達期間

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5.2.3 建設コスト試算

 『水力発電計画工事費作成の手引き』(平成25年3月 経済産業省 資源エネルギー庁)に基づき積算項目を表5.2-4に示す。土木工事費は新土木積算体系により積算した額を基に算出する。土木工事費以外の部分はメーカー等からの見積もり額を基に工事費を算出する。

         表5.2-4 『水力発電計画工事費作成の手引き』における積算項目

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 表5.2-4において(1)土地補償費及び(6)総係費、(9)分担関連費は当該事業では必要が無いもしくは、極めて少額となると想定されるため試算対象としない。(3)土木関係費は『馬野川小水力発電所の事業性評価』事業で実施した測量・作図業務の成果により作成した実施設計図面を基に工事費を算出した。表5.2-5にその結果を示す。

              表5.2-5 建設コスト

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5.2.4 定常的操業費

 水力発電事業には日常や定期的な維持管理業務が発生するので、それらを定常的操業費とし、その費用を表5.2-6に示す。

              表5.2-6 定常的操業費

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 人件費は発電所に遠隔監視システムを導入することにより、無人での操業を行うことができるので、当面は人員配置を計画していない。

5.2.5 その他の費用

(1)  販売・一般管理費

 法定福利費(健康保険料や厚生年金等の会社負担分)や広告宣伝費、接待交際費、旅費交通費、支払い手数料、通信費、水道光熱費、消耗品費等の費用が想定される。これらを年間50万円程度と推定する。

(2)  寄付金

 当該事業における地元自治会等への協議費として年間30万円を見込む。

5.2.6 キャッシュフロー計算

 5.2.1から5.2.5までの検討を踏まえ、当該事業に関するキャッシュフローを計算する。計算は全額銀行融資の場合を想定する。以下、その計算条件を示す。
 融資金額  : 342,000千円
 利息   : 1.75%
 返済期間  : 15年

 全額銀行融資の場合のキャッシュフロー計算表を表5.2-7に、その根拠となる各種計算根拠を表5.2-8に示す。

          表5.2-8 キャッシュフロー計算表(全額融資の場合)

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          表5.2-9 キャッシュフロー計算表の根拠資料(全額融資の場合)

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 キャッシュフロー計算表から以下のことが判明する。
 借り入れ期間である15年間を通じて資金が不足することはない。
 IRRは4.9%となった。
 21年目以降は買取り価格を16円/kWhと想定しても、毎年650万円ずつ期末残高が増える。
 事業開始直後は地域貢献のための資金拠出が難しい。

5.2.7 事業実施会社の設立

 図5.2-1に本事業のスキームを示す。新たに設立する2つの法人により当該事業を実施する。一方が水力発電所の建設と運営を担う会社で法人形態は株式会社を想定し、(株)マツザキが設立母体となる。(第二創業を予定)

他方は、現在の地域協議会が協議会組織から法人化し、地域おこし等の種々の事業を行う。法人形態は一般社団法人とし、行政や地域との連携を密に地域に必要となる事業を行っていく予定である。

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        図5.2-4 馬野川小水力発電復活プロジェクト全体スキーム

 また、図5.2-5は水力発電所の建設と運営を担う法人(株式会社)の事業スキームを示す。各種の法人や機関と連携を密にして、契約や保険等によりリスク回避し水力発電所の建設・運営を行う

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            図5.2-5 水力発電所建設・運営のスキーム

5.3 事業リスク

 発電事業に伴うリスクや対策を以下に示す。

               表5.5-1 事業リスクと対応策

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5.4 事業実施スケジュール

 2017年冬に工事に着手し、約1年間の工事期間の後、機械設備の試運転・調整を経て2019年4月の本格運用開始を目指す。スケジュールを表5.4-1に示す。

               表5.4-1 事業実施スケジュール

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6. 地域活性化への効果

6.1 当該地域の活性化

6.1.1 地域協議会の設置とその使命

 本事業では、図6.1-1に示す様な組織体で推進する。具体的には地域協議会というものを構成し、その事業の推進母体は株式会社マツザキとする。そこに阿波、布引、山田の各地区自治協議会、地権者、三重大学、北伊勢上野信用金庫、アサンテ環境研究所等の関連機関が協力して行く。

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                図 6.1 1 地域協議会の設置

 地域おこしで重要なことは、地域の住民が何をやりたいのかをまずはっきりさせることである。そこで地域協議会の使命として図6.1-2に示す様な内容をかかげた。

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                図 6.1 2 地域協議会の使命

 この地域協議会の使命は、「旧大山田村に残る里山の自然と同化して、村民の生活が成り立つ伊賀里山資本主義を実現することである。」そして、これを実現するために、以下の手段を用いる。

・ 1つは、小水力発電の建設
・ 1つは、さるびの温泉の復興
・ 1つは、地域あげてのカーボンオフセット活動の推進

である。カーボンオフセットというのは、何らかの要因で排出した二酸化炭素に相当する分のカーボンクレジットを購入して相殺し、それに支払ったお金で森林整備や地域振興が行われる活動である。

6.1.2 事業スキーム

 小水力発電を核とした地域復興事業を進めるに必要な資金は、総額3億4千万円を想定している。図6.1-3に事業スキームを示すが、総額の中の5,000万円は、地域住民、地元企業や地元団体からの直接出資やグリーンファンドの出資で賄う方法を検討した。
具体的には、地域住民からの直接出資については、
(1) 「緑の贈与」による出資スキーム
(2) 「資源リサイクル活動との連携」による出資スキーム
の実現可能性について検討した。

 更に、一般社団法人グリーンファイナンス投資機構による
(3) 「グリーンファンド」による直接出資、間接投資による出資スキーム
についても実現可能性を検討した。

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               図 6.1 3 事業スキーム



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