「緑の贈与」による出資スキームの検討

(1)  IGESが提唱する「緑の贈与」の概念

 緑の贈与」とは図6.1-4に示す様に、子供や孫に現金ではなく、太陽光発電や小水力発電などの再生可能エネルギーへの投資を目的とし、生前贈与を考えている高齢者を対象として企画された長期の信託契約である。その際、生前贈与の非課税枠110万円を利用して有利に運用することになる。

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              図 6.1 4 緑の贈与の概念図
        出所)アースソーラー (もりやま市民ソーラー 3号機),
         http://tvt-.jp/moriyama3/index.html、2014年12月15日取得

 「緑の贈与」は地球環境戦略研究機関(IGES)主任研究員の松尾雄介氏が考案したもので、IGESはその効果を試算しているので以下に紹介する。

 まず、現在日本での贈与の規模は、年間約4兆円規模と推定されている。加えて、相続(死後の資産移転)は、年間27兆円と推定され、贈与と相続全体では年間30兆円規模となると言われている。贈与や支出に関する意識調査では、全体の7割が贈与(相続)をしたいと答えており、今後のお金を使いたい使途として、「孫への支出」が第3位(33%)に入っている。この4兆円の贈与、または27兆円の相続を、その一部であっても、再生可能エネルギーの拠出につながる形でできるようになれば、大きな推進力になると考えられる。また、意識調査の結果から「緑の贈与をやってみたい」という高齢者は約2割(0.7×0.33)であり、「緑の贈与をするとしたらいくらぐらい?」という質問への回答を見ると、その平均値は約400万円であった。日本に約2,000万円世帯ある高齢者世帯の2割が400万円ずつ緑の贈与をすると、総投資額は約16兆円に上ると予測される。緑の贈与によって再生エネに導かれる個人資産が、約16兆円あるとすると、この巨額の投資により、中期的には4,000~5,000万kWの再生可能エネルギー作り出すことができる。それによって、約7.8兆円の化石燃料輸入代金を削減し、約5億トンのCO2を削減し、100万人規模の雇用が創出されるという試算である。

(2)  三菱UFJ信託銀行へのヒアリング

 本事業の様な、金額として1,000万~2,000万円の信託事業に対し、三菱UFJ信託銀行等大手金融機関の関与の可能性について、ヒアリングを行ない下記コメントを貰った。

1) 「緑の贈与」は、「高齢者が地球環境への貢献を考え、子供・孫に金銭を贈与する代わりに、太陽光パネル等の再生可能エネルギー設備を贈与する」という概念である。従って、契約形態としては、必ずしも「信託契約」が求められる訳ではない。

2) 「緑の贈与」の効果試算自体は、提唱団体である地球環境戦略機構(IGES)が当該内容を提唱した情報をHPで公開しているもので特に違和感はない。http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1405/20/news037.html

3) 三菱UFJ信託銀行では、現在贈与に関わる信託商品として「教育贈与」を扱っている。教育贈与の場合には、全国一律の条件で運用が可能である。一方、「緑の贈与」は、個々の事業ごとに運用成績が異なるので、事業ごとにファンドを設定して運用して行かざるを得ない。従って、金銭管理が非常に複雑となる。また、1つの事業に対し、1つのファンドとなると、1つのファンドの規模が10億レベルでないと、三菱UFJ信託銀行の業務として成立しない。結局、規模の小さいファンドは民間の信託株式会社が扱わざるを得ない。

4) 太陽光発電の場合には、太陽光発電の新規接続申請の急増に対し、一部の電力会社で、新規接続申請に対する回答保留の動きが出てきている。従って、太陽光発電事業に、これから新たに取り組む場合には、電力会社への接続申請の回答保留状況に留意する必要がある。

5) 本事業は小水力発電事業であるが、設備導入に時間がかかるが安定して電力を供給できる電力であるため、優遇される可能性が高い。

6) トランスバリュー信託㈱については、商品として確かに「緑の贈与」の概念を具現しており、相応の意義がある。但し、以下の点で多少魅力が薄れている。
http://tvt-f.jp/moriyama3/index.html

 滋賀県守山市民が拠出しているアースソーラー資金は、「融資」と位置付けられているが、実態は元本保証、配当保証のない「エクイティ投資」だと考えられる。受益者への支払収益も「予定配当金(残存元本×2%)」+「融資手数料」(太陽光事業売電収入から費用控除後の余剰収益)で、エクイティ投資家の収益構造である。収益配当金(2%)は、何ら保証されているものではない。実際の売電収入の変動で、収益も変動してしまうので、最低保証収益額でもなく、あまり意味がない。元本が少額であるため、やむを得ないが、信託報酬が比較的高額(1.1%)に設定されている。通常は0.5%~1%が多い。太陽光に関しては、買取価格(FIT)が年々低下しており、その分事業者の収益性は低下していく。

(3) 「緑の贈与」の展開具体例

 図6.1-5に滋賀県守山市で進められているアースソーラー守山市民ソーラー3号機の仕組みを示す。事業主体は、もりやま市民共同発電所推進協議会で、守山市の市立河西幼稚園の屋根にソーラーパネル(もりや市民ソーラー3号機)を設置し、これを電力会社への買電事業(FIT事業)により運営している。パネル設置費用および維持運営費用は、トランスバリュー信託株式会社の中にファンドを組み入れて賄うが、このファンドへの直接出資を市民にお願いすることになる。この取り組みの中に「緑の贈与」が組込まれている。

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          図 6.1 5 アースソーラー守山市民ソーラー3号機の仕組み
         出所)アースソーラー (もりやま市民ソーラー 3号機),
         http://tvt-f.jp/moriyama3/system.html、2014年12月15日取得

 当ファンドは、18年にわたる長期の信託契約であり、高齢の方が、自分の子供や孫を受取人とする「緑の贈与型」として設定されている。生前贈与の非課税限度額(110万円)を利用し、自分の子供や孫に現金でなく、太陽光発電事業への投資を目的とした信託受益権を贈与することにより、償還金・配当金が毎年自分の子供や孫の口座に入金される。将来世代に資産と共に再生可能エネルギーを継承する意義を持たせている。図3.1-6は太陽光発電事業の収支構成と収益分配方針を示したものである。

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          図 6.1 6 太陽光発電事業の収支構成と収益分配方針
         出所)アースソーラー (もりやま市民ソーラー 3号機),
         http://tvt-f.jp/moriyama3/system.html、2014年12月15日取得

・ 収入は、電力会社への売電収入からなる。推進協議会は、事業期間終了時に、設置した太陽光発電設備を当初の設備価格の5%の価格で守山市に譲渡するが、この売電収入には、その設備譲渡収入も含まれている。
・ 出資者である高齢者は、収入の中から元金償還金と予定配当金(2.0%)、融資手数料を受け取り、これを自分の子供や孫の口座に非課税限度額内(年間110万円内)で振り込む。
・ 共同発電所推進協議会は、収入の中から、保守点検費、固定資産税、法人税、パソコン電気代、保険料、設備メンテナンス費(5年毎)、パソコン等機器の更新費(10年毎)を確保しなければならない。
・ また、信託会社は、初期費用分割払いと、信託報酬(1.1%)を受け取る。

(4) 「おひさまエネルギーファンド」の問題点

 長野県飯田市を中心に市民参加型の太陽光発電事業などを展開している「おひさまファンド」対して、ファンドの資産管理に不適切な点があることから、金融庁が行政処分を行った(平成26年5月23日)。我々の事業も市民参加型の小水力発電事業であり、今後のために「おひさまエネルギーファンド」の問題点を確認しておく。

 証券取引等監視委員会が指摘した問題点は下記3点である。

 第1の問題点は、図6.1-7に示す様に、ファンドの資金管理口座と会社固有の財産口座を分別して管理していないことである。

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         図 6.1 7 口座の分別管理に関する金融庁の監督指針(左)
              おひさまエネルギーファンドの口座管理(右)
         出所)おひさまエネルギーファンド(株),
     http://www.ohisama-fund.jp/bunbetuzu3.png、2014年12月15日取得

 金融証券取引法では、ファンドなどを運用する金融取引業者に対して、資金の分別管理を義務付けている。これに対し、「おひさまエネルギーファンド」では、ファンド毎にファンド専用口座と会社固有の口座を設けて管理しなければならないが、各出資者からの出資金は、各営業者名義の預金口座に対して振り込まれており、各営業者の固有財産とファンド資金の分別管理が確保されていない状況が認められた。

 第2の問題点は、同社が立ち上げ直後のファンドで事業の利益が発生していない期間にも係らず、当初の計画に沿って現金を分配していたことである。おひさまエネルギーファンドの現金分配方法は、元本に毎年度の利益を上乗せするパターンが原則だが、複数のファンド間で資金の賃借を実施して現金の分配に充当していた(図6.1-8参照)。

画像の説明

          図 6.1 8 ファンド出資者に対する利益配分のイメージ
          出所)おひさまエネルギーファンド(株),
           http://www.ohisama-fund.jp/、2014年10月17日取得

 第3の問題点は、このような資金の管理状況にあったにも関わらず、「おひさまエネルギーファンド」は、財務省の関東財務局長に対し、ファンド資金が分別管理されているとする虚偽の報告書を提出した点である。

(5)  トランスバリュー信託銀行株式会社へのヒアリング

1) トランスバリュー信託(株)の概要

 トランスバリュー信託(株)は、2005年に設立され、資本金400万円、従業員数28名の会社で、信託業務を主として行っている。社長の杉谷氏は、もともと東海銀行に勤め、三菱UFJ銀行と合併した後は、三菱UFJ信託銀行に行き、そしてトランスバリュー信託銀行を設立。現在楽天の子会社として再生可能エネルギーの信託業務をやっている。

2) トランスバリュー信託(株)ファンドの性格

 トランスバリュー信託(株)の扱うファンドは市民ファンドで、運用の対象も事業そのもの。従って、小水力発電のリスクを市民に説明し、理解してもらう必要がある。法律的な面も説明していく必要がある。市民には、事業そのものに共感を持つ人と、とにかく再生可能エネルギー普及に役に立ちたいと思う人がいる。今回は前者であり、目に見える形での投資が望ましい。トランスバリューは、現在19ケ所でファンドを設定している。目標は50万円/人×10,000人=50億円。リスクを最小に、地域貢献、利回りの良いもの、を目指す。

3) 募集方法について

 ファンド募集に際しては、行政の支援を得ることが重要。公民館での説明会、回覧板の活用、地元新聞による紹介。1年間は1部を市に寄付する。これの市長による記者発表が効果を持つ。トランスバリュー信託(株)の初期費用は100~150万円。ファンドにするのであれば、500万円以上にする必要がある。

4) 配当の商品券化について

 資源リサイクル事業の出資ポイントについては、出資という表現には配当が必須である。配当を商品券で置き換えることについては、トランスバリュー信託(株)が配当をA社に現金で渡し、これでA社が地域商品券を購入し、参加者に配当として渡すことは可能。

5) 緑の贈与について

 守山市のファンドは、緑の贈与が6割。20代後半から30代が4割。1つのファンドの中で、緑の贈与は特約付きで扱う。同じ条件であれば、複数の事業を1つのファンで扱うことは可能。中心市街地活性化を取り込むのも面白い。



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