(その6)…森のエコステーションの展開

1.1.1 「資源リサイクル活動との連携」による出資スキームの検討

(1)  「森のエコステーション」の概念

 「古来、みどりを失った地域は発展しない」と伝えられてきた。(株)環境思考が展開する「森のエコステーション活動」は、何とかこの失われた緑を取り戻すという思いから6年前にスタートした。また、その活動の中で、地球温暖化対策の一環である「カーボン・オフセット」にも取組み、この活動が国に認められ、2013年1月に環境大臣賞を受賞した。

 「森のエコステーション」活動は、ITを活用したポイント端末機器(計量器を連動させたもの)を利用することで成り立つ。図6.1-9に示すように、「森のエコステーション」に地域の人々によりリサイクル資源(古紙や空き缶等)が持ち込まれると、その種類と量に応じてポイントが計算される。一方で、リサイクル資源を持ち込む際の自動車の利用に伴う避けることのできないCO2排出量を、付与されたポイントの一部から自動的にカーボン・オフセット分(7~15%)として差し引く(相殺)。結局、残りのポイントを還元する取り組みである。なお、これらのポイントのやり取りは「見える化」できるようにしてある。

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          図 6.1 9 森のエコステーション概念図
                    出所)(株)環境思考からの配布資料より

 ここで、リサイクル品を持ち込む際の自動車の利用に伴うCO2排出量のポイント分は、カーボンオフセット活動として使われる。具体的には、J-VER制度を通してカーボン・クレジットを購入し、代金は県内の森林整備費用や地域振興費用などに使われる。地産地消を考える場合、実現するにはCO2削減に努力してカーボン・クレジットを保有している地域の企業から購入することで実現する。一方、地域の人々に還元されたポイント分はスーパーや商店街で商品を購入することに使われる。現在、カーボンオフセットを取り入れた「森のエコステーション」は、三重県内に9ケ所ある。いずれも市町の比較的利用者の多い場所をターゲットにして設置されている。

(2) 地域おこしへの「森のエコステーション」の導入

 本事業では、(株)マツザキが進める里山電力発電事業と(株)環境思考が進めている資源リサイクル活動とを連携させて地域おこしを進める。すなわち、地域おこしの対象となる地区は、伊賀市の旧大山田村地内にある3つの区(阿波地区、山田地区、布引地区)である。
なお、本事業では馬野川の小水力発電を活用しているが、太陽光発電、バイオマス発電といった他の再生可能エネルギーを対象とすることも可能である。

 図6.1-10に小水力発電の場合の具体的な連携図を示す。会員は古紙やアルミ缶等を回収ステーションに持ち込む。持ち込まれたリサイクル資源の種類と重量によって、リサイクルポイントが与えられ、会員はそのポイントで地元の商店街で商品に交換する。本事業では、会員には与えられたポイントの一部を小水力発電の維持管理に応援出資することが求められる。一方、ポイント還元の一環として、会員を対象とした各種イベントが開催されるが、小水力発電事業者には、このイベントを支援することが求められる。

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        図 6.1 10 里山発電事業と資源リサイクル活動との連携

 図6.1-11には、資源リサイクルポイントシステムの概要を示す。また図6.1-12にはポイントの「見える化」したものを示す。基本的には資源持込み者にポイントを還元して、商品等の交換をしてもらう。一方で、回収ステーションでの広告代や発電事業者のCSR貢献でイベントを開催し、地域おこしを進めるというものである。

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         図 6.1 11 資源リサイクルポイントシステムの概要

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           図 6.1 12 ポイントの「見える化」

 以下、資源リサイクル事業で登場するポイントシステムについて説明する。

(1) リサイクルポイントは、一般市民が持ち込むリサイクル資源に対して、資源回収業者が与えるポイントである(+500ポイント)。このポイントの原資は資源回収業者が、持ち込まれた資源を買い取り業者に売って換金し、その中からポイント分を負担する。回収ステーションでのリサイクルポイント付与枠は、下記の通り。

1) 古紙は1.7point/kg
2) アルミ缶は25point/kg
3) 鍋・やかん・フライパンは15point/2個
4) 金属類は2.5point/kg

 また、さるびの温泉でのイベント開催時には、資源臨時回収ボックスを設置し、鍋・やかん・フライパンを50point/2個で引き取る特別回収を実施する。この500ポイントから

5) 10%を地域住民による発電応援ポイントという形で、小水力発電への応援ポイントに当てる(-50ポイント)。この発電応援ポイントは、小水力発電への応援出資という形で投入される。この応援出資で地域住民に与えられる特典は、エコステーションへの広告掲載協賛企業が別途催す水力発電イベントに参加できることである。地域住民からの発電応援ポイントについては、主婦や住民の訴えが強く出るような形で、水力発電と関係付ける。生活の中で水力発電を考えられるように里山資本主義の考えを入れて行く。

6) 7~15%をカーボンオフセットに当てる(-50ポイント)。通常は、カーボンオフセットは、J-VER制度を活用して行うが、地産地消を実現するということであれば、伊賀地区で既にカーボンを保有しているもくもくファームから購入し、オフセットを進めることも可能。

7) 結局、リサイクル資源持込み者が手にするポイントは、400ポイントとなる。この400ポイントで、地元商店街での商品交換、もくもくファームへの入場券購入や、さるびの温泉入浴券購入、を行なえる。

 小水力発電業者(㈱マツザキ)は、発電が開始されるまではCSR貢献という形で、各種イベントの開催費用の一部を負担する。発電が始まれば、売電利益をポイントに上乗せすることも可能である。回収ステーション内では、協賛企業の広告掲載を行ない、この広告代を発電事業のCSR貢献資金を用いて各種イベントを開催する。今回は、地域おこしの一環であるところのさるびの温泉の復興イベントを主に考える。

 伊賀市全体への本事業の具体的な進出計画に関しては、資源回収業者㈱タカミの協力を得て行っていく。目標は伊賀市全体で5,000人の会員数を得ることと、伊賀地区商店街での商品交換、さるびの温泉入浴券購入、もくもくファームへの入場券購入がポイントなる。その際、次の4つの柱を掲げて進める。
① 社会的意義…自然の力の活用とカーボンオフセットの推進、
② 地域性、
③ 経済性、
④ デザイン性
である。テーマを「カーボンオフセットと地域エネルギー」として展開する。

(3)  資源リサイクル活動と小水力発電事業のマッチング

 本事業は、里山発電による地域おこしと「森のエコステーション」による資源リサイクル活動を連携させ、地球温暖化防止対策を地域おこしの中で進める里山資本主義を実現する点に特徴を持つ。リサイクル資源の回収拠点となる「森のエコステーション」を通して環境貢献できるシステムは、地域の皆さんが、家庭のリサイクル資源物をエコステーションに持込むことにより、付与されたポイントから地域の森林整備資金や地域振興および復興支援活動に役立たされる資金となる仕組みとなっている。従って、本事業の全体的効果は、地域住民、資源回収事業者、地場の商店街や施設が、それぞれの役割分担で地域おこしに貢献し、市場性の高い、環境と経済が循環する仕組みが実現できることである。

 個別の期待できる効果を以下に4点ほど挙げる。

a. 地域住民による直接出資の形の実現
 地域住民は回収ステーションで得られるポイントの一部を里山発電事業に投資できる。これは地元の住民が地域おこしに参加する上で大きなインセンティブを与える。この出資に見合う配当として、後で説明する各種イベントに参加する権利が与えられる。

b. 多様なカーボンオフセット活動の展開
 地域住民がリサイクル資源を持ち込む際には、自動車を利用する場合が多い。この自動車利用に伴うCO2排出量分をカーボンオフセットできる。また、里山発電事業を進める上での各種イベントを催すが、その際に発生する削減不可能なCO2分をカーボンオフセットすることもできる。なお、カーボンオフセットの際のカーボンの購入については、もくもくファームのような地元企業から買い取っていけば、地産地消のカーボンオフセット活動が実現する。

c. 地域商店街、地域の娯楽施設、地域プロジェクトの活用
 本事業では、資源リサイクルで得たポイントは、地域の特産品や温泉入浴券やもくもくファーム入場券との交換券として活用する。ちなみに、伊賀市の旧大山田村地区およびその周辺には、図6.1-13に示すように幾つかの娯楽施設がある。

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           図 6.1 13 旧大山田村の施設位置図
                 出所)背景の地図:大山田観光協会パンフレットより

 1つは、おおやまだ温泉「さるびの」で、年間15万人以上が来場する地域のシンボル的な施設である。
 1つは、もくもくファームで農業公園を前面に出したテーマパークで、季節ごとに各種イベントを催し大きな人気を得ている。
 1つは、(社)大山田農村業公社で推進している「菜の花プロジェクト」である。菜の花プロジェクトとは、遊休農地を活用して菜の花を栽培し、美しい農村風景を作り出すと共に、その菜種を搾り、地産地消に務め、地域の特産品として販売する。また、使い終わった廃油をバイオディーゼル燃料に精製し、農業用トラクターの燃料として使う資源循環モデルを構築している。

d. 各種イベントの開催
 回収ステーションの構内には、商店街の各店や地域の娯楽施設の広告看板を掲げる。これによって得られる広告収入で図6.1-14に示す各種イベントを催せる。

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         図 6.1 14 地域おこしに関連する各種イベントの開催
                      出所)(株)環境思考からの配布資料より

 このイベントには、リサイクル資源を持ち込んだ地域住民が優先的に参加でき、出資に対する配当の意味を持たせている。さるびの温泉の復興を地域おこしの一環として展開していく。

(4)  資源リサイクル事業の経済性について

 これまで三重県内で進めてきた9つの回収ステーションの標準的な経済効果は図6.1-15の様になる。
1) 1つの回収ステーションでの利用者数は最低2,000人は見込める。
2) 1人の利用者は平均年間240kgのリサイクル資源量を持ち込む。
3) 1つの回収ステーションでリサイクル資源量が、480トン/年であれば、リサイクル資源の売り上げは年間300万円を見込める。
4) 営業利益は20%の60万円、減価償却費は40万円となるので、キャッシュフローとして100万円が見込める。
5) 回収ステーションの初期設備投資額は約500万円であるので、年間キャッシュフローが100万円あれば5年間での償却が可能である。
6) これは古紙についての経済性で、実際にはアルミ缶、鍋・やかん・フライパン、金属が入って来るので、更に回収期間は短くなる。

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             図 6.1-15 事業の経済性

 ここで旧大山田村地区で、会員数が1,000人とした場合の経済性をみてみる。売上が300万円の半分の150万円程度が得られ、営業利益が150万円の20%で30万円、減価償却費が20万円で、キャッシュフローは50万円となる。そこで、初期設備投資額を半分程度の250万円に抑えてやれば、250万円を50万円で割ってやると、都市部と同じく回収期間は5年となる。



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