(その6)…都市回遊性概念の本事業への応用

馬野川小水力発電とさるびの温泉復興による地域おこし」の実現可能性

 旧大山田地区には、2001年に開場したさるびの温泉がある。現在は一時の賑わいが衰え、1日当りの来場者数は500人から300人にまで減っているが、温泉の効能も高く、根強い人気を保っている。

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 一方、この地域には、1級河川馬野川が流れているが、その上流には、明治時代に、地区の有力者により60kw級の水力発電所が設置されていた。これは、現在取り壊されているが、史跡という観点から復興が望まれている。

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 昨今、外から来訪する観光者の流れである観光回遊性を、地方の衰退しつつある中心市街地や観光地への回遊性に流用する事によって賑わいを取り戻そうとする手法に関心が高まっている。これまでに観光回遊性を扱った研究が色々とあるが、我々が対象とする大山田村の地域おこしを実現するための論理的根拠を図6.2-3の論文に求めた。

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     図6.2-3 「都市の回遊性の概念化に関する考察」
          日本不動産学会誌/第29巻第1号 2015.6 川津商事㈱ 川津昌作

 本論文の主旨は下記の通りである。

(1) 都市の回遊性とは、人が物・サービス、時間、マネーを消費する消費者行動の流量であり、特に初期目的を超過した付加価値を求めて渡り歩く事である。

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 都市の回遊性とは、都市において買い物客が店舗内や商店街を歩き回わることを指す。。従って、日常我々が行う買い物行動とは異なる。買い物行動は、単に何かを購入したいという目的だけで行うものである。買い物をするという目的の他に、買い物の途中で思いもしなかった物に遭遇するチャンスを求めて都市の回遊は行われる。買い物客は初めに持っていた目的だけではなくて、もっと何か面白いものに出会うことに満足し、そのことを経験することにより成長するものである。

(2) 消費者の満足度は、初動目的達成価値だけでなく、それを超過した付加価値の消費によって得る満足により成長する。

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(3) 都市の回遊性をマネジメントするためには、供給者サイドの回遊性概念を消費者サイドの回遊性概念の整合性を図り、回遊性の生産性を上げ、革新的な工夫が必要となる。

(4) 回遊性の効果は、都市の資源価値を示す都市エクイティに帰結するものでなくてはならない。

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 なお都市エクイティとは、ブランドエクイティからの造語で、来訪者の心の中に醸成された都市の魅力資産価値のことを指す。不動産の証券化に当たっては、不動産の価値を担保に資金を地用達するが、その際にエクイティ(自己資本)とデット(他人資本)をどのように組み合わせるかが重要。

 以上の理論を旧大山田地区の地域おこしに下記の様に適用する。

 旧大山田地区おける地域おこしの基本的考え方は、旧大山田地区の観光客に対し、さるびの温泉の復興と馬野川小水力発電の観光をセットにして開発を進める。その意図は、健康増進あるいは娯楽・保養を目的としたさるびの温泉に来られた消費者の皆様に、温泉を楽しもうという初期目的を満たすだけではなく、馬野川小水力発電場での史跡めぐり、水系の健康散策、キャンプ等のレジャー、という付加価値をも提供するものである。

 これを逆に展開することも可能である。馬野川小水力発電の史跡めぐりという知的満足を求めるという皆様の初期目的を満足させた上で、さるびの温泉で旅の疲れを癒し、余暇を楽しんでもらおうという捉え方も可能である。

 いずれにせよ、さるびの温泉には、娯楽的な要素が、馬野川小水力発電所には、環境問題への意識向上という知的要素を上手くミックスさせることが必要となる。

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 馬野川小水力発電所開発に求められる観光施設としての付加価値は、下記が考えられる。

(1)  オンリーワン発電所の要素を持ち、見学をしてもらう魅力に富むこと。

 これを満足する要素としては、明治時代の発電所を再現し、史跡めぐりとしての価値を付与する。近傍に資料館を建設する。散策を可能とする様に、春秋に景観を楽しめる桜や紅葉樹を楽しめる遊歩道を整備する。馬野川水系はキャンプ場として開拓し、夏場のレジャースポットとして提供する。

(2) また、さるびの温泉の付加価値としては、下記に求める。

(ⅰ) 伊賀地区は空き民家があり、さるびの温泉への来客の宿泊施設としての活用を考える。
(ⅱ) 温泉施設の魅力を上げるためには、イベントを催すことが重要である。住民を巻き込んだ地域のリサイクル回収ステーションを提案し、これを活用した資金によるイベントを開催する。
(ⅲ) 温泉場という特徴を利用して、排熱利用による温室運営で野菜などの栽培を、伊賀地区の農家の協力の下に進める。



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