(その9)…伊賀小水力発電復活プロジェクト

1. 表 紙

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 皆様こんにちは、私は本日の講師を勤めます伊藤と申します。宜しくお願いします。現在は、北伊勢上野信用金庫という地域の金融機関に勤めていますが、その中に、コラボ産学官という産学連携機関があります。その事務局長をやっています。また同時に、三重大学人文学部の地域連携協力員の立場で三重大学ともお付き合いさせて頂いています。

 できるだけ若く見せようと頑張っていますが、何時、アルツハイマー病になってもおかしくない年寄りです。69歳です。今日は我慢して年寄りと付き合って下さい。私のテーマは「地方創生への挑戦」~馬野川小水力発電復活プロジェクト事業~とさせて頂きました。

 この地方創生とは、現在アベノミックスで進めている成長戦略の1つで、地域での投資を活発に行い、地域に雇用を生み出す活動というものです。また、この馬野川とは、三重県伊賀市を流れる山間の川の名前です。一級河川です。その川に200kw級の出力を持つ小水力発電所を建設するという話ですが、280軒分の電力供給が可能な規模です。また、復活プロジェクトというのは、明治時代に造られた発電所を再び蘇えらせるようというプロジェクトです。今年末(2016年12月)から建設工事に入りますので、これまでの経緯も含めて紹介させて頂きます。

2. 相互連携協力協定

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 まず、なぜ私がここで、この様な話をしているのかですが、実は、昨年5月に三重大学人文学部と北伊勢上野信用金庫は相互連携協力協定というものを締結しました。要は、市町が進める事業を北伊勢上野信用金庫という金融機関と三重大学が連携してやって行こうというものです。この相互連携協力協定で扱っているテーマの1つに、「馬野川小水力発電復活プロジェクト事業」があり、そこの部分を森先生と一緒になってお手伝いしている訳です。森先生との接点がここにあります。

3. 今日の講義の主旨

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 今日の講義の主旨ですが、アベノミクスの成長戦略の中で、展開されている地方創生を考えます。この地方創生を推進する上で、
(1) 地域を学び考える
(2) 地域の課題に向き合う 
(3) 地域と共に解決策を探る
ということを皆さんと一緒に進めたいと思います。地域とか、地方創生という言葉ですが、結構地味に見えますが、今日の話の中には、投資の話があり、技術開発の話があり、事業計画の話があり、地域おこしの話がありと、盛り沢山になっています。

 私のみで皆様にお伝えできるか少々不安でしたので、今日は助っ人を1人連れてきました。伊賀市大山田支所振興課地域おこし協力隊の早川さんです。特に将来はベンチャー企業でも起ち上げて、ひと旗あげたいと思われる方々には、打ってつけの事例であると思いますので、ちょっとだけ耳を傾けて頂ければと思います。

4. 地域問題の背景

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 まず地域問題の背景について考えてみたいと思います。今日本は将来をどうすれば良いのか、という大きな課題を抱えていまして、これに地域の課題を嵌め込んで行かなければならないと思っています。地域問題というのは、地域で勝手に色々と考えてやればいいというものではありません。日本全体を地域と一丸になって考えて行く必要があります。


5. 日本が抱える三つの問題

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 日本が抱える大きな課題とは何でしょうか。3つあります。
1つは少子高齢化問題であり、
1つはGDP国民総生産の低成長率であり、
1つは世界トップクラスの借金大国です。

 これらの課題はいずれも地域創生と大きく関わってきます。これら3つの課題を認識しておかないと、地方創生、地方創生と言っても、何をすれば良いのか判りません。特に私は金融機関にも足を突っ込んでいますので、この3番目の世界トップクラスの借金大国という問題は、外すことができません。

6. 少子高齢化問題

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 まず最初に、少子高齢化問題です。図は日本の年齢別の人口を示した図です。現在68歳から70歳の層は「団塊の世代」と言われています。実は私も、1948年生まれの団塊の世代の中心に位置しています。この私の属する団塊の世代の人口が3,000万人で全人口の30%を占めています。石を投げれば3人に1人、68歳から70歳の老人に当ります。気を付けて下さい。うるさい老人が多いですよ。反対に、20~23歳の若い世代が500万人で全人口の5%と大きな差です。この現象は、世界にも例がなく、日本は参考にする国はありません。反対に、世界中から日本は一体どの様にこの問題を扱うのか、着目されているというのが現状です。そして、この少子高齢化の問題がどうして「地方創生」に繋がるのでしょうか。考えてみます。

7. 地域問題の背景・「地方創生」という言葉が生まれたきっかけ

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 「地方創生」という言葉が生まれたきっかけは、3年前の2014年末に出された増田レポートでした。増田レポートは、衝撃のレポートでした。「東京など都市圏への若者の流出」と「若年女性の減少」が進めば、2040年には全国の1,799のうち896の市町村は、「消滅可能性都市」になるという恐ろしいものです。これによると、三重県は結構やばいです。三重県は、消滅の可能性が48%で、約半分の確率で多くの市町村が消滅する運命にあります。従って、三重県の各地域では、地方創生を一生懸命やって消滅するのを防衛する必要があります。

8. GDPの低成長率

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 2つ目の大きな課題が、「GDPすなわち国内総生産の低成長率」です。図は縦軸にGDPの成長率、横軸に年代を取って、直近までのGDP成長率の変遷を示したものです。1990年頃は、まだ5%近くあったものが、直近ではゼロまたはマイナス成長となっています。日本が今後生き延びて行くための最低条件は、低くても良いから成長し続けることが大事だと言われています。GDPそのものは、現在520兆円であり世界3位です。まだまだ日本の経済力はあります。問題はその成長率であり、ゼロまたはマイナスがここのところで続いていることです。これを何とか少しでも良いからプラス成長にしなければならないということです。そして、GDPは現状520兆円ですが、600兆円が1つの目標です。

9. GDP(国内総生産)を増加するには何をすれば良いのか

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 このGDPを増やすには何をすれば良いのでしょうか。これはGDPを構成する要因ですが、消費支出、投資、在庫は言い換えれば生産、輸出と言ったところです。特に地方創生戦略においては、地域の中小企業への投資とそれに伴う雇用の確保が重要です。

 今、国はマイナス金利政策という金融緩和を実施して、お金を市場に回し、企業にどんどん設備投資等をやって下さいと言っています。2%のインフレすなわち物価上昇させるべく、消費の増加と生産設備投資による生産増加、雇用確保、賃金上昇を図っています。これらはGDPを押し上げますが、これらのことが地方で起これば願ったり適ったりで、地方創生の実現に繋がります。

 実は、私が現在お世話になっている信用金庫でも、地域の中小企業の皆さんを相手に、できるだけお金を使って下さいとしりをたたいている状況です。ですから、中小企業にとって今が事業を拡大するチャンスです。

10. 世界トップクラスの借金大国

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 残る最後の日本の課題ですが、日本は今、世界トップクラスの借金大国であるということです。しかし、日本はそう簡単には潰れないと言われています。理由の1つが、日本のGDPそのものがまだまだ世界3位というレベルにあることです。もう1つが、借金は国債の発行で賄われていますが、これの持ち主が日銀であって海外の機関投資家ではないことです。

 そして図に示します様に、借金に対するガイドラインがありまして、借金約1,200兆円をGDP、国内総生産の額520兆円で割った値が2倍を超えない様にしようということです。この値が今後3倍に迫って行くと危ないと言われています。

11. プライマリーバランスの赤字

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 これは日本のプライマリーバランスを示したものです。プライマリーバランスとは、税収に対し、基本的な国の支出の部分、すなわち、社会保障、地方交付税交付金、公共事業、防衛費のバランスを指します。現在の日本は、明らかに税収不足です。この不足分を国債を発行して補っています。2017年度ですと、新規発行が34兆円、買い戻し分が23兆円で、約毎年10兆円が積み上がっています。日本のこれまでの負債は1,200兆円になっていますが、これをどうするのか。大変な問題です。税収を増やして国債の発行をできるだけ抑えるためには、地方での経済を活発化する、すなわち地方創生が重要になってきます。

12. マイナス金利政策の思惑

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 国債の話が出ましたので、国債を含めた債券の特徴について少し説明させて頂きます。発行会社の信用力で買う債券と発行会社の成長力で買う株式は、全く扱い方が異なってきますので、要注意です。ここに示します様に債券は購入した後、利子を定期的に受取りつつ、償還時に元本を返してもらう」という形になります。次に、この枠の中に、債券の最終利回りについての式が書いてあります。債券の価値を判断する上で、「最終利回り」というものが非常に重要で、長期金利とも言われるものです。

 「最終利回り」は、クーポンすなわち利率による儲けの部分と取引時の儲けから成り立っていて、この取引価格が重要になます。具体的な例で示しますと、償還まで1年、クーポンが年2%の債券が、額面100円に対して103円と高価格で取引きされた場合、最終利回りは-1%になります。同じ条件の債券が額面100円に対して97円と低い価格で取引きされた場合、「最終利回り」は5%と上昇します。すなわち、債券価格が上昇すると、「最終利回り」は下落することが分かります。このことが、債券では重要です。

13. マイナス金利政策の思惑

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 これは、現在の日銀のマイナス金利政策を示したものです。マイナス金利政策下で、銀行は国からいやいや国債を購入せざるを得ませんが、日銀がどんどん買い取ってくれるので、現状では銀行は日銀に国債を売り、日銀から出た金をどんどん市中に回している状況です。
日銀は、マイナス金利政策で、債券価格が上昇しても、これからもどんどん国債を集めると言っています。明らかに、長期金利の低下を意図しています。

 一方、金融機関はいずれもマイナス金利政策の余波を受けて、苦労しています。どういうことかと言いますと、お金は市場に回りますが、貸し出しの利息が低いので、取扱い量が増えても利益が出ません。仕方なく、住宅ローン、消費者ローン、保険手数料でかろうじて生きています。

14. 日銀総資産500兆円

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 これは今年6/2日の日経新聞記事です。とうとう日銀の国債保有額は500兆円を突破しました。国債全体の40%以上を日銀が保有していることになります。こんなことは世界で始めてのことです。しかも、日銀はインフレ率2%が実現するまでは、買い続けると言っています。このまま行って、2%インフレが達成できた段階で、利上げという話になると、国債価格は大きく下落しますので、マイナス利回りの債券を多数抱かえた日銀は大損、債務超過になると喚いている学者もいます。ですから、それに至る前にどの様な出口戦略を見せてくれるのかが、今黒田日銀総裁に問われている課題です。

15. 年金の運用損失

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 この新聞記事は、この大変な時期に、一体政府は何をやっているのかという言語道断の話です。GPIF年金積立金管理運用機構が、株式投資で大損したという話です。この2年間に2回やらかしています。10兆円の損失です。我々が本当に大事に思っている年金をリスクの高い株式での運用に回してですね、あろうことか失敗したという訳です。一度、この穴埋めをどうするのですかと質問したら、いずれ儲ける時に穴埋めしますと軽くいなされました。そんなことは誰でも言えることです。もっと真剣に大事なお金を扱って貰いたいものです。

16. 地域の課題とは

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 興奮してきましたので、ちょっと冷静になりたいと思います。日本の抱える課題については、ほぼ認識できましたので、ここから、地域の課題を皆さんと一緒に考えます。





17. 三重県の名前の由来

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 我々が対象とする地域は三重県です。三重県とはどの様な特徴を持つ県かご存知ですか。
余談になりますが、まず三重県の名前の由来から行きます。日本で最も古い歴史書の古事記によれば、西暦300年頃の古墳時代にヤマトタケルノミコトが東国遠征の帰途に、満身創痍となって三重村という場所、今でいう四日市を通過したという伝説が残っています。ヤマトタケルの命は、三重に曲がった曲り餅の様に自分の足が膨れ上がってしまったと嘆きました。これが三重県という県名のいわれです。

18. 三重県の現状

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 三重県は以前から、日本の縮図だと言われてきました。三重県は、四日市や桑名からなる北勢と尾鷲や熊野からなる南勢からなりますが、その状況は全く異なります。なぜでしょうか。県内総生産額や1人当たり市町村民所得を見ても、三重県の北部と南部の生活格差が増加し、三重県における南北問題となっているからです。


19. 三重県の基本データ

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 一方で、三重県を平均的に眺めてみますと、総面積、人口、就業者数、民営事業所、名目域内総生産、小売業販売額はいずれも20位前後で、全国47都道府県中の中間に位置しています。これを見る限り、県民性としては「目立たない」となります。ところが、1人当たり県民所得は5位、貯蓄現在高は2位と、「目立たないけどしたたかな県民」と言えます。どちらかと言うと、三重県人はずる賢い県民性なんですね。私も、三重県四日市市の生まれ・四日市育ちですが、確かに合っています。私も、日頃はできるだけ目立たない様にして、したたかに何かを追っ掛けるという性格は持っていると思う時もあります。

20. 地域別の人口増減

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 これは三重県で地域別の人口の増減をみたものです。今日、取り上げる伊賀地域は、どちらかと言うと中間的な存在です。沢山の人が入ってくるでもなく、むしろ若干減っているという地域です。





21. リニア新幹線の効果

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 一方、リニア新幹線は、2025年に開通します。そうなれば、三重県の北西部は、東京から2時間圏内に入ってしまいます。伊賀市を含めて北勢地区は、地方と言っても、比較的交通の便の良い地方ということで、ますます南北格差が生まれそうです。





22.交通インフラ整備状況

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 交通インフラについても、伊賀地域は比較的恵まれています。名阪国道が近くを通っていますし、新名神への便も良いです。伊賀地区での地域おこしを考えるなら、名古屋、大阪から1.5時間圏内、同様の条件を持つ地域との競合を考える必要があります。これに打ち勝つには、他とは何が違うかを鮮明にする必要があります。



23. 伊賀地域の産業構造

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 伊賀地域は、通勤・通学などの生活面や文化面では、大阪市を中心とする近畿圏との繋がりが強いのが特徴です。産業構造を見てみますと、製造業が半分を占め、近畿からの企業立地が進んでいます。また、俳人松尾芭蕉、伊賀忍者といった歴史文化でも有名となっています。



24. 阿波の地勢

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 ところが、今日お話をする旧大山田地区というのは、阿波、布引、山田の3つの地区からなる地域です。伊賀の中心街からは30分ほど奥に入った所にあります。かつては、さるびの温泉という温泉地で栄えましたが、今は、かつてほどの繁栄とはなっていません。さるびの温泉を全国区へとの思いで、早川さんも地域おこし協力隊員に就任されました。


25. 阿波の人口推計

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 これは阿波の人口推計を示したものです。人口は平成28年は1,103人でしたが、10年後の平成38年は748人で約3割減少します。また、65歳以上の高齢者数を見てみますと、平成28年は45.6%ですが、10年後の平成38年は57%と高齢化が進みますし、また、将来を担う若い世代も7.1%から2.0%に減少し、少子化も進みます。増田レポートの判断基準によれば、完全に消滅可能都市と言えます。しかし、それでは駄目だということで、阿波地区の住民は立ち上がりました。

26. 金融機関の役割

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 ここからは、地域の問題に対して、金融機関の役割について考えます。地方創生戦略を進めて行く上で、金融機関には大きな役割を担っています。






27. 中小企業の定義

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 信用金庫の対象は中小企業です。中小企業というのは、製造業では資本金3億円以下、または、従業員300人未満と中小企業法では定義されています。でも信用金庫は従業員20人以下小規模事業者も沢山抱えています。反対にそれ信用金庫の強みとなっています。




28. 信用金庫と銀行の違い

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 信用金庫は、お金儲けを考える金融機関ではありません。相互扶助を考える金融機関なのです。通常の金融機関は、株式を買ってもらって配当していますが、信金は中小企業や個人から出資をして貰って、これに配当する形を取っています。利益をメインとするのではなく、助け合うのが使命なのです。一見、格好良く見えますが、現実は色々と苦労があります。


29. 東日本大震災での信金の涙の物語

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 信用金庫の戦略、それは都市銀行や地方銀行が諦めて、手を引き始めたその時からが勝負となります。悪い言い回しをすると、「はいえな」みたいなものですが、そこには、義理とか人情があります。少し具体例を示します。

 2011年3月11日の東日本大震災からの復興に絡んで、気仙沼信用金庫がテレビで紹介されました。ある造船会社が、完全に潰れました。再建に3億かかるということで、国からの支援金を受けますが、清算払いなので、直ぐには金は降りて来ません。そこで信金が3億のつなぎ融資と500万円の新規融資を買って出たわけです。ところが、この造船会社は他の銀行からも別途750万円の融資を受けていて、その債務を返さないことには、信用保証協会の認可が降りないということになりました。地方銀行は気仙沼信金にその債務も立て替えろと言ってきました。そこから地方銀行と気仙沼信用金庫の交渉が始まり、なんとか、再建企業のお役に立てたという話でした。他行の借金まで肩代わりさせられそうになっても、お客のためならなんとかしようというのが、信用金庫の底力です。

30.投資・融資に関するアドバイス

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 私も金融機関に少し足を突っ込んでいる人間ですので、ここで少し投資とレバレッジ効果ということを考えてみましょう。2006年、今から11年前になりますが、今もテレビに出ていますが、ホリエモンこと堀江貴文という若き実業家がいました。ライブドアというベンチャー企業を大きく開花させようとあらゆることをやりました。最後には、やりすぎて粉飾決算と風説の流布の容疑で逮捕されてしまいました。

 私も当時彼の講演を聞きました。彼の主張はこうです。自己資本があっても借りれる状況にあるならば、徹底して融資を受けなさい。そして、自己資金はもっと効率の良い事業に投資したら、というものでした。この言葉は、レバレッジ効果を最大限に生かしなさいということです。レバレッジ効果とは、この式に示す様なもので、この式でこの部分が非常に大事です。最終的な投資者還元利益率は、もともとの投資対象の利益率に、投資対象の利益率と負債利益率の差とこれに負債総額を自己投資資本総額で割った倍率を掛け合わせた部分を足し合わせます。言えることは、借入利息が低い状況で、この部分がプラスになる限りは、融資をできるだけ多くして、この倍率が大きくした方が有利です。

31. 具体的計算

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 具体的に数値を当てはめてみるとこの式の持つ意味が良く分かります。今、3,000万円の不動産物件の価格上昇率10%が見込めて、銀行に借金をする利率5%よりも大きい場合を考えます。例え手持資金が300万円であったとしても、残り2,700万円を銀行から借りれるなら、投資をした方が大きな利益を得られるというものです。すなわち、この例では、負債総額2,700万円を自己投資資本総額300万円で割った9倍という値が、レバレッジ(てこ)となって利益に効いてくるというものです。

 この場合の最終的な投資者還元利益率を計算してみると、何と10%の事業利益率が50%に跳ね上がります。何とすごいことになります。それでは、借りるだけ借りれば良いのかというと、これは色々な状況を考えなければならないと思います。その状況とは、
(1)この事業はどの程度継続する事業なのか。1年間で決着の付く事業なのか。それとも5年間位は続くのか。それとも10年間の長期になるのかです。
(2) 融資に対する利息、すなわち、現在の金利が今後続くのか、場合によったら1年以内に利上げがあるのではないか、と言った様な場あいです。

 最悪の場合を考えてみます。当初予定していた事業利益率10%が経済の混乱等で3%と、借入の利息5%より低くなってしまいました。とたんに、今迄プラス側に大きく作用していたレバレッジ9倍が一瞬にマイナス側に大きく作用することになります。計算上ではマイナス8%と大きな損失を被ることになってしまいました。要は融資を受ける時の状況が何時まで続くのかという予測がポイントです。

32. 具体的挑戦と将来像

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 ここからは地方創生への具体的挑戦についてお話しします。







33. 馬野川小水力発電復活プロジェクト事業

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 現在、我々は伊賀地区において、「馬野川小水力発電復活プロジェクト事業」を進めています。復活プロジェクトという意味は、冒頭に説明しました様に、100年前の明治に、先人たちは「オラが村に電灯を」との思いから、この場所に小水力発電所を建設していました。現在でも、写真に示します様に遺構があちこちに残っています。従って、今回の事業は遺跡復活事業的な意味合いも持ちます。そして、この事業のもう一つのポイントは、地域振興(地方創生伊賀モデル)に関する取組も併せ持つ点です。

34. 水力発電の仕組み

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 皆さんすでにご存知とは思いますが、小水力発電の仕組みについて、少しビデオで紹介します。







35. 株式会社マツザキ

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 今回の主人公㈱マツザキは、伊賀地域で60余年にわたり建設業を営んできました。2011年3月の東日本大震災で、東北のために何かしたいと思い、それが、次第に伊賀のために何ができるのか、に変わって来たそうです。そして、現在では、小水力発電を通じて「建設業としての地域貢献」「安定的経営の一角となる事業」の両立を図りたいという目的を持つようになりました。

36. 事業可能性調査

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 この事業を本格的に手掛けたのは平成26年、既に4年がたとうとしています。これまで何をして来たかと言いますと、まず、平成26年に、資源エネルギー庁から500万円の補助金を頂いて、事業性についてのフィージビリティスタディを行ないました。

 調査のポイントは2つです。
1つは、今回やろうとしている事業が、地方創生の目的に適っているかどうかの判断。
1つは、どの様な形で事業を進めれば、採算に合うのかという見極めです。

 水力発電事業というと、通常は地方自治体が中心になって行われますが、今回は民間企業で、地元の中小企業であるある株式会社マツザキという土木建設業者です。国内を見ても民間企業主導の水力発電事業は非常にまれなケースです。

 FIT事業とは、太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーについて、固定価格買取制度で、20年間に亘って電力会社が発電したエネルギーを買い取りますよという制度です。一方、地産地消事業というのは、発電所建設には地元の自治体に補助金を支給してもらい、発電した電気は地元で買い取ってもらうという事業です。今回は、200kw未満の水力発電エネルギーを中部電力に34円/kwhrで買い取ってもらうFIT事業でやることにしました。

37. 中小企業の戦略

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 さて、この図は必要な資金を投資規模で表現したものです。研究は数百万~数千万、開発は数千万~数億、事業化は数億~数十億、産業化は数十億~数百億となります。中小企業が対応できるのは、せいぜい開発・事業化までですが、それでも数億から数十億必要です。今回も5億程度かかる投資となっています。

 スライドの隅に今どこの話をしているかを判る様に言葉を付けてあります。これは事業可能性評価の部分という意味です。時々自分でもどこを話しているのか判らなくなることがありますので、済みません、皆さんも時々確認して下さい。

38. 200kw級の小水力発電の選定理由

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 今回対象としている200kw級未満の小水力発電の市場を検討してみました。設備容量の図から判ります様に、発電出力で200kw未満は全体の7%と少ないです。多いのは1,000kw以上の発電所です。一方、200kw未満の地点数は多くあり、全体の43%にもなります。要は、200kw未満の発電所を設置する場所は一杯あるが、まだそれほど設置されていないことを表しています。実際にFIT認定も200kw未満は全体の3%と僅かです。

 以前よりこの領域では、200kw級の小水力発電は、出力が小さい割に建設費が高くなり、事業メリットが得られないというものでした。そこで、今回は新たな工法を取り入れた新技術を開発して、建設コストを大幅に削減できれば、これまでそれほど開発されてこなかった発電出力200kw未満の領域に新たに大きな需要を見出せると考えました。

39. 小水力発電の概要

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 今回計画している水力発電設備はこの流れ込み式のものです。河川の流れの途中から水を引き出して、落下させ、そのエネルギーで水車を回し、発電するタイプです。今回は200kw級の出力を持つ発電所にしました。最大出力200kwという値は、流量0.4m3/secと落差75m、重力加速度gと効率0.7を掛け合わせて得られます。

 年間発電量100万kwhrという値は、過去の最低流量の年について、毎日の流量を365日分積み上げ(7008hr)、稼働率90%(6,000hr)とすると、100万kwhrとなります。一般家庭280軒分に相当します。売電収益34,000万円は、34円/kwhr×100万kwhrを賭けて出て来ます。

40. 発電所設備現地

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 具体的に馬野川における発電所設備の設置位置を示したのがこの図です。取水口を2つの支流の合流直下の河川内にもうけます。標高461mです。850mの導水管を使用し、標高462m地点まで導水します。75m落下させた水を、発電所の中の水車へ落とし込みます。発電所の標高は385mです。近くの浄水場には導電線が引き込まれているので、これを利用して送電を行います。

41. 流量測定

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 ここでは流量測定について少し説明します。この流量調査は事業性があるかどうかを決定する最も重要な部分です。馬野川の水量測定は、1年間測定しました。この流量図は、365日分のデータを最大のものから最小のものまで順番365日分並べて描いたものです。95番目の豊水量は毎秒0.4ton、185番目の平水量は毎秒0.2ton、275番目の最小水量は毎秒0.15tonであることがわかりました。

 問題はこれでどの程度の水車を回せるかです。このままでは150wを少し切る程度です。ここの150kwを採算の取れる200kwにどの様に持って行けるか、そこが我々の技術開発での見せ所となりそうです。

42. 事業可能性評価の結果

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 以上、事業可能性について評価した結果がこのスライドです。小水力発電事業は、億単位の設備投資を必要とし、会社を設立して運営するので、雇用も確保できます。地方創生の目的に適います。

 採算性については、出力200kwの水車でFIT事業を活用すれば、34円/kwhrで年間100万kwhrの発電量となり、年間3,400万円の収益を確保できます。建設土木工事を自ら行うことにより、オンリーワン技術の蓄積が可能となることが分りました。そして、技術開発をして目途が立てば、事業を本格的に進めましょうということになりました。

43. 技術開発

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 ここからは技術開発の話をします。すこし工学系の話題ではありますが、できるだけ解り易く説明しますので、辛抱して下さい。利益がそこそこ見込め、誰でも出来る条件であれば、大企業が簡単に進出して事業そのものを持って行ってしまいます。その目安は市場規模で50億円と言われています。ですから、中小企業としましては、50億円以下のニッチ市場でオンリーワン戦略を取ることが必要となります。そこで、2015年にオンリーワンとなる技術開発を中小企業庁のものづくり試作補助金制度を利用して、1500万円の補助金を貰って行いました。

44. オンリーワン技術

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 ここで、我々が目指したオンリーワン技術について少し説明します。従来は、川からの水を引く導水路は開放U字構方式です。流量は自然にまかせる訳です。今回の新技術では、パイプを使用した閉館タイプを用いて、流量の多い場合に、ポンプで押し込んででも流量を稼ぐことを考えています。通常だと捨てていた部分、すなわち、未利用水部分を、何とか有効に使おうとする考え方です。今回技術開発を進めた最大の理由は、この未利用水の活用技術の開発にあったわけです。

45. 水車の選定

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 また、水車の選定のやり方によっては、発電効率を大きく向上させることができます。流量が少なくなった時でも、水車を回し通年運転できる様にしました。水車は一旦止まると稼働時間が少なくなり、得られる電力量は減ってしまいます。最大流量毎秒0.4tonのものが20%の毎秒0.08ton程度まで低下しても、連続運転が可能な水車を選定できれば、通年運転が可能となり、発電効率を大きく向上できます。

 最終的に選んだ水車は、ペルトン水車とターゴ水車です。ペルトンの特徴は、ノズルから流出するジェットをランナ周辺バケットに作用させる構造のものです。ターゴ水車は、ノズルからの流出ジェットをバケットに斜めに作用させる構造のものです。最終的には、経済性を考慮してターゴ水車を選定するのが、今回の現場には最適であると判断しました。

46. 技術開発の結論

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 これは、技術開発で得られた成果です。まず、実証試験を行って、基本的なデータで技術的な問題の解決のヒントが得られました。従来のU字溝開管方式からパイプ閉管方式に変えることで、未利用水活用を可能にしました。Only One技術の確立です。また、土木工事は自分でやるので、色々な技術ノウハウの取得による他社への技術売りを視野に入れることができました。

47. 事業計画

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 さて、Step3では事業計画の策定になります。昨年平成28年に実施しました。この部分も資源エネルギー庁の補助金400万円を貰っています。事業計画では考えなければならないことは山ほどあります。





48. 事業全体スキーム

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 これは事業全体のスキームを示したものです。発電事業は、第二創業で新しい会社を発足させて運営します。新会社の名前は「三重地域エネルギー株式会社」です。また、収益を確保は中部電力との間での固定価格買取制度を活用したFIT事業で実現します。そして、この事業を進めるには、地元の住民の協力を得なければなりませんが、そこの部分は、当面事業が軌道に乗るまでは地域協議会という形態で進めます。また、事業で収益が出始めたら、これを基に基金を作って、一般社団法人として、その中で地域おこしをやって行こうと考えています。

49. 事業計画のシミュレーション

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 事業のシミュレーションも非常に重要です。当然我々も色々なケースについてシミュレーションしました。全額融資か投資を受け入れるのか。初期投資をどの程度に押さえなければならないのか。判断は、二つの指標を使って行います。1つはIRRと言って内部収益率と呼ばれます。すなわち、事業による利回りが資本コストに対し上回っているかどうかで判断します。1つはDSCRと言って、元利金返済カバー率と言われます。返済能力が十分あるかどうかで判断します。

50. 魔の川、死の谷、ダーゥインの海

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 それから、事業化に当たって考えなければならない重要な問題があります。この図ですが、ここには、研究 ⇒ 開発 ⇒ 事業化 ⇒ 産業化という四つのステージを描きました。あるステージから次のステージに進もうとしますと、間違いなくそこにはそれぞれ障壁があります。要は何事もとんとん拍子には行かないということです。研究と開発の間の障壁を「魔の川」、開発と事業化の間の障壁を「死の谷」、事業化と産業化の間の障壁を「ダーウィンの海」と呼びます。今回の事業でも「死の谷」がありました。

51. 小水力発電における死の谷とは

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 今回の事業での「死の谷」ですが、1つは水利権や地権者問題です。水利権とは、この河川の水を使って農業等が行われていれば、流域の農家の方々の許可を得る必要があります。また、小水力発電所の建設をする際には、山林を持つ地主さんの許可が必要となります。今回は何とか許可を得ていますが、これが大きな壁となることもあります。

 また、一級河川上での構築物規制があります。我々も当初取水口が一級河川に掛かっていて許可が出ませんでした。これは岩盤規制と言われているものです。その後、伊賀市の管轄領域まで取水口を遡らせて、何とか建設OKに漕ぎつけました。また、地域住民の理解が必要となります。住民の皆様に参加してもらうために、地域おこしを一緒に進める必要がありそうです。

52. スケジュール

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 これは全体のスケジュール表です。まず、今年の8月には、第二創業株式会社を設立して、資金の運用ができる状態を作り上げ、年末には具体的な土木建設工事に入ります。工事期間は約1年で平成31年4月からは発電事業を開始します。




53. 事業化の結論

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 事業化計画での結論をここに示しました。1つは、地産地消事業ではなくFIT事業で進めます。2つ目は、投資ファンドを活用せず、全額融資の自己負担型とする。そのために、第二創業「三重地域エネルギー株式会社」を設立します。地域おこし事業は、FIT事業の収益を基金にした一般社団法人で進めます。建設工事を平成29年末から開始し、平成31年4月から発電事業を開始します。

54. 地域おこし事業の将来像

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 ここからは、地域おこし事業をどの様に進めるのかについて考えてみます。







55. 地域協議会としての取組み

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 当面は地域協議会の中で、地域住民参加型の活動展開を考えています。本格的な地域おこし事業は、FIT事業が上手く回り始めて収益がではじめましたら、それを基金とした一般社団法人を設立して進めることを考えています。




56. 地域協議会としての取組み

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 これは、今日出席してもらっている地域おこし協力隊員である早川さんの処で作成された地域協議会の取り組み方針です。すでに地域住民参加の取組みをスタートさせています。地域振興、環境学習などの情報発信、住民や地元企業への出資要請。利益還元方法の検討といったものの検討がなされています。



57. 「緑の贈与型」出資スキーム

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 ここで、具体的な活動を二つ紹介します。1つは「緑の贈与」型出資スキームです。「緑の贈与」というのは、生前贈与の非課税枠110万円を利用して、子供や孫へ、現金でなく小水力発電などの再生エネルギーへ投資して頂くものです。地域の老人の方々に110万円内で投資して頂ければ、その配当や償還金を子供や孫に託すことができます。


58. カーボン・オフセットを取り入れた資源リサイクル活動

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 もう1つが「カーボンオフセットを取り入れた資源リサイクル活動」です。地域に資源の回収ステーションを設置する方法です。例えば、新聞紙を回収ステーションに持ち込めば、それに応じたポイントが支給されます。そのポイントの一部を小水力発電に投資してもらうという考え方です。

 カーボン・オフセットとは、どうしても避けられないCO2排出、例えば、回収ステーションへ自動車で持って来た場合、その時に排出されるCO2の発生は避けられないものです。これをカーボンクレジットを購入することで相殺しようとするものです。いずれも伊賀市からの協力が必須ですので、気長に取り組み必要があります。

59. 一般社団法人としての取組

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 FIT事業が上手く回り始めて、収益が見込める段階になってきましたら、この収益を基金とした一般社団法人を設立します。そのなかで、地域おこしとしてどの様なことを展開するのかですが、これもすでに検討を開始しています。




60. 「阿波組」当面の活動と期待

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 早川さんのおられる阿波地区での地域おこし活動の方針がこれです。・若者目線のまちづくり、・あわトピアプラン、・大山田3自治協共通取組、・産業、観光資源等の再発見、・新たな事業の提案、・新たなイベント取組  などです。これらの取組を、小水力発電で得た収益を基金とした一般社団法人を設立して、その中でやって行こうという考えです。


61. 自然学習体験ゾーン

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 森教授からも1つの提案が出されています。自然体験学習ゾーンの提供です。例えば、
ゾーン1では、馬野川小水力発電所での環境体験学習ゾーンを提供します。
ゾーン2では、さるびの温泉での健康リゾート体験学習ゾーンとなります。
ゾーン3では、夏場のほたる鑑賞体験学習ゾーンです。
ゾーン4では、星空観察体験学習ゾーン
ゾーン5では、農業体験学習ゾーン。
といった様に、多くの体験学習ゾーンを考えて行きます。できるだけ沢山のメニューを準備して、観光客に選んで楽しんでもらうようにしようと考えています。

62.  おわりに

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 今日は地域考えるがメインのテーマでしたが、それをかんがえなければならない背景や、
それを考えるにあたっての色々な課題、そして、具体的な対応について、そして、その挑戦がどの様な効果を生んでくれるのか。について、金融機関の役割という観点からお話しさせて頂きました。これからも、まだまだやらなければならないことが、沢山ありますが、地方創生を成功させるべく頑張りたいと考えています。ご清聴有難うございました。



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