その10…200kw級小水力発電事業の概要

1. 表 紙

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 それでは株式会社マツザキで進めている「馬野川小水力発電復活プロジェクト事業計画」について説明させて頂きます。資料は、正規版もありますが、PP資料も出来ていますので、これを用いて行いたいと思います。

 ここにこの水力発電の特徴が書かれています。未利用水を効率的に活用した導水路システムを採用するとありますが、これが今回進めている非常に画期的な技術開発のことを言っています。詳細は後で説明します。現在、ものづくり補助金1,500万円を国(中小企業庁)から貰いながら、技術開発を進めています。そして、この事業のもう一つのポイントは、地域振興(地方創生伊賀モデル)に関する取組みも併せて行っている点にあります。

2. 事業の目的

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㈱マツザキは、伊賀地域で60余年にわたり建設業を営んできました。2011年3月の東日本大震災で、東北のために何かしたいと思い、それが、伊賀のために何かしたいに変わって来たそうです。そして、現在では、小水力発電を通じて「建設業者としての地域貢献」「安定的経営の一角となる事業」の両立を図りたいという目的を掲げています。


3. 市場の規模・動向

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 市場の動向ですが、表3.1.1に示します様に、現在三重県内の小水力発電施設は23ケ所です。その内、1,000kw以下の水力発電を「小水力発電」と言いますが、三重県内は7ケ所がそれに相当し、事業主体は全て自治体や電力会社、電力卸最大手がやってきました。今回、マツサキがやれば、個人が事業主体となるのは初めてのことで、画期的です。


4. 中小水力発電のポテンシャル

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 今回対象としている200kw級未満の小水力発電の市場を検討してみますと、設備容量の図から判りますように、発電出力で200kw未満は全体の3%と少ないです。一方、200kw未満の地点数は多くあり、全体の43%にもなります。要は、200kw未満の発電所を設置する場所は一杯あるが、まだそれほど設置されていないことを表しています。実際にFIT認定も200kw未満は全体の3%と僅かです。その理由は、200kwと小さい割に、建設費が高くなり、事業メリットが得られないというものでした。

 そこで、新たな工法を取り入れた導水路の構築方法を開発して、建設コストを大幅に削減できれば、これまでそれほど開発されてこなかった発電出力200kw未満の領域に新たに大きな需要を見出せると考えられます。

5. これまでの取組み

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 この表にはこれまでの取り組みが示してあります。2013年5月に地域協議会を立ち上げ、その中で水利権や地権の問題を検討を始めています。ご承知の様に、小水力発電は太陽光発電とは違って、水利権、地権の問題が非常に重要です。2014年7月には、旧大山田地区の地域おこしも兼ねるべく、地域への説明会も行いました。また、2014年9月には岐阜県郡上市の石徹白地区への視察もやりました。

 これまで、地域協議会を立ち上げて約2年半経過していますが、地域協議会は3回開催し、事業性の説明をしたり、地元との合意形成を図ったり、発電システムについての説明を行なったりと、色々と地元への働きかけは行ってきました。

6. 馬野川小水力発電を復活させるプロジェクト 地域協議会

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 地域協議会はこれまで、3回開催しましたが、いつも言っていることは、貴重な水資源を地域エネルギーとして地産地消することです。地域エネルギーの恩恵を地域に還元することです。これらの活動により住民参加型の自治意識を高め、地域社会の維持・発展に寄与することです。



7. 「小水力発電を核とした地域復興計画」資源エネルギー庁委託事業

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 2014年は、資源エネルギー庁から、500万円の補助金を頂いて、事業性のフィージビリティスタディを行ないました。実現可能性は高いという判断を下し、より詳細な検討に入るということになりました。




8. 流量調査

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 この流量調査が事業性があるかどうかを決定する最も重要な部分です。圧力水位計を用いて、1年間測定しました。具体的には、30分毎に測定し、1日分データの平均値をその日の流量とし、これを365日分集めます。この流量図は、365日分のデータを1日当たりの流量が最大のものから最小のものまで順番に並べて描いたものです。185日を基準とした平水量を計算には使用します。185日の平水量0.220m3/secであることがわかりました。問題はこれでどの程度の水車を回せるかどうかです。

9. 未利用水を活用した導水路システムの概要

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 ここで未利用水を活用した導水路システムの概要について少し説明します。従来は、導水路はU字構で、開管タイプです。流量は自然にまかせる訳です。今回の新技術では、閉管パイプを用いて、流量の多い場合に、ポンプで押し込んで流量を稼ぐことを考えています。通常だと捨てていた部分を、何とか有効に使おうとする考え方です。開放U字溝だと150kwの水車を効率良く回すのに0.324m3/sec必要です。ちなみに流量測定では、平水量で0.220m3/secでした。どうみても流量は不足しています。これを閉管にすると増水の時に、もっと多くの水を活用できます。

 今年2015年は、中小企業庁のものづくり補助金1,500万円を貰って、技術開発を行っていますが、今回技術開発を進める理由の1つは、この未利用水の活用技術の開発にあります。理由のもう一つは、建設工事費の削減です。

10. 発電所設備概要

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 馬野川における発電所設備の設置位置を示したのが、この図です。取水口を2つの支流の合流直下の河川内に設けます。標高471mの地点です。850mの導水管を使用し、ヘッドタンクへ導水します。標高465m地点です。圧力管にて発電所建屋建設予定地に導水します。標高395m地点です。近くの浄水場へ導電線が引き込まれているので、これを使用して送電を行ないます。

11. 建設コスト比較と事業収入

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 150kwを対象として考えます。この時の建設コストがどれぐらいで抑えられるか、これが今回の事業の目玉になる話です。現在、この建設コストを下げるための技術開発を行っています。今後これがどの程度になるかは、技術開発に依存しますが、ここでは事業計画を立てるために、「水力発電計画工事作成の手引き」により、概算工事費を算出し、これを計算に使いました。

 これは中小力発電に用いていた一般的な発電設備1,000~5,000kwレベルを用いての工事費算出になるので、200kw級にこの方法を用いると高目、高目の工事費となります。それによれば、3億3780万円となります。これを今回の技術開発で2億7000万円まで下げようと考えています。また、事業収入についてですが、150kwの水車で発電電力量は90万kwhになります。Kwh当り34円ですので、年間売電収益は3075万9千円となります。FIT事業は20年間ですので、FIT事業が終了した後は、通常のkwh14円となります。

12. 事業性評価

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 事業性評価についてですが、建設費は高目の概算値を、まずは3億4千万円かかるとして計算しています。後半では2億7千万でも計算しています。事業計画の評価は、2つの指標を使って行っています。

・IRR…内部収益率、すなわち、事業による利回りが資本コストに対し上回っているかどうか。
・DSCR…元利金返済カバー率が十分あるかどうかで判断しました。

 3通りのケースに分けて実施しています。

 Case1は全額融資で、150kwの水車を3億4千万円で導入する場合。20年返済で、DSCR=1、IRR=2.2%となりました。DSCR=1というのは、事業キャッシュフローが、元利金返済と等しいことを指します。トントンです。IRR=2.2%は、資金コストが2%に設定していますので、0.2%利回りが大きいことを示します。FIT事業の継続期間が20年ですし、その間は収入が確実に見込めるので、20年返済もありかと思います。一番厳しい条件で検討していますが、まあ、何とか採算が採れます。

 Case2はリースを活用した場合です。全額リースは、DSCR=0.74となり、リース返済自体が負担となりもたない。3億4千万円の内、7,880万円をリースした場合でも、DSCRが0.90と、IRR2.2%となり、やはり返済能力に不安が残ります。リースは、初期投資は少なくて済みますが、全体で見るとあまり面白くありません。

 Case3はベンチャーキャピタルに5,000万円の投資をしてもらう場合です。投資額5,000万円、融資額2億910万円、リース7,880万円で、この場合、DSCRは1.03、IRRは2.1%となり、事業性の確保は可能です。

13. 事業性に関する目標値の設定とSPCの設立

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 最後に理想的な条件で一例。建設費を3億4千万円から2億7千万円に削減した場合です。7,880万円のリース、5,000万円投資、1億9千万円16年融資の組み合わせです。計算結果は、DSCRは1.01、IRRは5.4%となり、期待は十分持てます。ベンチャーキャピタルからの投資を検討するということは、資本構成としてエクイティ部分が発生しますので、発電設備またはプロジェクトそのものを証券化する必要が出てきます。そこで特別目的会社SPCの設立を考えます。名称は、「三重地域エネルギー株式会社」にします。設立登記を何時行うのかをアドバイス願います。

14. 年度別アクションプログラム

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 年度別アクションプログラムを示したものが、これです。現在は2015年度の中間で、正に事業性の評価をやっている最中です。このあと、許認可事前協議、基本設計、施工と進みます。2年半後の2018年度から運転開始です。




15. 「緑の贈与型」出資スキーム

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 ここからは、いわゆる売電収益は地域振興策に使用することを見据えた市民出資を仰ぐスキームです。ここでは、伊賀市からの支援というものが必要となってきます。市民に出資して頂く1つの方法として、「緑の贈与」の出資スキームがあります。これは、生前贈与の非課税枠110万円を利用して、子供や孫に現金でなく、小水力発電などの再生エネルギーへの投資して頂くものです。その配当や償還金を子供や孫にするものです。

16. カーボン・オフセットを取り入れた資源リサイクル活動

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 地域にリサイクル資源の回収ステーションを設置する方法も考えられます。例えば、新聞紙を回収ステーションに持ち込めば、それに応じたポイントが支給され、そのポイントの一部を小水力発電に投資してもらうという考え方です。一方、カーボン・オフセットとは、どうしても避けられないCO2排出、例えば、回収ステーションへ自動車で持って来た場合、その時のCO2発生は避けられないものです。これをカーボンクレジットを購入することで相殺しようとするもの、これがカーボンクレジットと呼ばれるもので、伊賀地域全体の活動目的として掲げるものです。

17. おわりに

 いずれも伊賀市からの協力が必須です。一番厳しい条件で最低限を確保し、技術開発、リース会社、ベンチャーキャピタルからの投資等の話は、これからは全てプラスに作用してきます。



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