三重大学機能性トマト開発の経緯

 2011年3月11日PM2:46にM9.0の巨大な東日本大地震が東北地方を襲いました。震源地は宮城県牡鹿半島沖の東南東13kmで、震源の深さは約24km、最大震度は宮城県栗原市で7でした。この時の大津波で被災した三陸地域の農家は、海水が内陸地域まで到達したことにより、土壌が完全に塩水に浸かってしまい、土壌機能が大きなダメージを受けました。

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 地震から3ケ月後の2011年6月2日号の週刊文春にエッセイスト阿川佐和子の陸前高田市の戸羽市長へのインタビュー記事が掲載されました。そこで目に留まったのがトマトに関する下記のやり取りでした。

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阿川:「企業に知恵をだしてほしい」
戸羽:「農業にしても、昨日ちょっと聞いたんですが、塩害でやられている土地でトマトを作ると、すごく甘いトマトができるそうですね。」
阿川:「あ、そうなんですよ。トマトはMなの。マゾなの。」
戸羽:「アハハハ、そういう表現になりますか(笑)」
阿川:「トマトはいじめるほど甘くなるらしいです。」
戸羽:「もともとここでは、食品加工会社との契約でトマトを作っていたから下地はあるんです。そういうノウハウを結集させたい。我々もどんどん新しいチャレンジをしてくから、企業さんもこの地域を支えてチャレンジしていただければありがたいですね。」

 当時、私は三重大学社会連携研究センターの産学連携コーディネーターとして、医学部の島田康人助教と生物資源学研究科の成岡市教授とお付き合いがありました。

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 島田先生は、NEDOの若手研究者「産業技術研究助成事業(若手研究グラント)」平成21年度(2009年)第2回公募に応募し、補助金額2,500万円、研究期間は平成21年1月から平成25年12月の4年の条件で採択されました。研究テーマは「新規がん遠隔転移モデルゼブラフィッシュを用いたハイスループットin vivo治療標的分子探索システムの開発研究」です。

 これにはデリカフーズ(株)の田井中開発部長が関わっていましたが、ある時、ゼブラフィッシュ関連の技術を東日本大震災の支援に用いることができるのでは、と意見交換している最中に、田井中氏が熊本の有明干拓地の井出農場で機能性トマトのテスト販売をしているという情報をもたらしました。その際に、週刊文春の記事か引き金になって、三重大学でも機能性トマトを取り上げて東北地方の農家を支援することができるのではないかとの話となりました。その時のストーリー展開は下記の通りです。

 三重県四日市市は昔からトマトの産地として有名でした。現在では長島町にその地位を奪われていますが、四日市市を機能性トマトブランドの拠点に育て上げ、四日市トマト生産農家を巻き込んで栽培し、これをデリカフーズで直販したらどうかとの企画です。そして、この四日市での機能性トマトの開発事業を陸前高田市の復興支援のスキームに乗せようというものでした。すなわち、四日市で開発した機能性トマトの生育技術を陸前高田市の塩害でダメージを受けた土壌に適用してみようというものでした。

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 開発研究の分担は、土層・土壌の復元法の開発は、三重大学生物資源学研究科の成岡市教授が行い、トマトの機能性評価は三重大学医学部島田康人助教が担当します。トマトの機能性評価では、食餌性肥満ゼブラフィッシュを用いた抗肥満試験を行うものとしました。

具体的な開発内容は下記の通りです。

Step1.
まず熊本県八代市の井手農家を訪問し、土層・土壌分析をやることにし、これは三重大学生物資源額研究科の成岡一教授が担当します。すなわち、塩トマト生育技術の調査するために、塩トマトのオリジナル開発地主からの情報収集を行うということでした。糖度が高い要因をつかむことから始めることにしました。

Step2.
井手農家から得た技術情報を駆使して四日市農業センターにて、抗肥満トマトを実際に生育し、その機能評価を行なおうというものです。

Step3. トマトの成分分析は、㈱デナイザーズフーズ社に委託します。

Step4.  できたトマトはデリカフーズ㈱のチャネルにて流通させるというものです。

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事業展開経緯

 事業コンセプトは素晴らしく、この開発事業は平成23年(2011)から平成27年(2015)年までの5年間続くことになります。

 2011年から2013年の開発段階は、開発資金の工面に苦労しました。本事業は産学連携事業ですので、分担者はみずから活動資金を工面することになります。

 三重大学サイドは、各種の補助金申請をしまくって資金調達を試みました。例えば、

2011年7月…三井物産環境基金 25,690千円 
「機能性野菜生産地としての三陸地域土層・土壌復元技術および高付加価値・機能性野菜の栽培技術の開発研究」
2012年2月…農水省・新たな農林水産政策を推進する実用化技術開発事業 83,475千円
      「抗メタボ・トマトの生育・土層構造改良技術の開発」

などですが、残念ながら、いずれの補助金も獲得するまでには至りませんでした。仕方なく、学部の共通予算を使用するなどして、最低限の研究を進める以外に方法はありませんでした。しかし、四日市農業センターには、市の予算を使用して機能性トマトの栽培技術を検討してもらいました。また、㈱デザイナーズフーズにおいても、機能性成分の分析費用は会社の開発予算で対応していただきました。従って、3年間は開発研究を継続できました。

  しかし、後半に入り、具体的なビジネス段階になりますと、
(1) トマトの糖度の品質保証を行なうに当たり、全数検査を取らざるを得ないということで、生産農家サイドにはコストがかかり過ぎることが判明しました。
(2) 機能性食品の認可制度が開始され、機能性トマトの認可を受けるためには、各種データを提出しなければならないことがわかりました。これは㈱デザイナーズフーズにとっても大変な作業になるとのことで、しばらく様子見となりました。
(3) 販売流通においても、㈱デリカフーズが本格的に展開するまでにはまだ機運が高まっていないことが分かりました。

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 結局、問題が山積みとなり、機能性トマトの開発は一旦中断となりました。世間でよく言われる開発から事業化の間に存在する死の谷に我々も踏み込んだ訳です。



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