(その2)…熊本県「塩トマト」栽培農家での現地調査

 熊本県有明干拓地で「塩トマト」を栽培している井手農家とは、デリカフーズ㈱の田井中開発部長が5年前からマーケット調査ということで、お付き合いがありました。その縁で今回紹介して頂くことができました。

 我々も今回三重県四日市市の土地に「機能性トマト」を栽培する技術を開発しようということになったわけですが、まずは、現地の情報を入手するのが一番ということになりました。三重大学生物資源学研究科の成岡教授を筆頭に、現地調査のため熊本を訪問することにしました。

 現地調査は都合3回実施されました。

第1回目…2011年7月9日 ~7月10日 (2日間)
第2回目…2012年8月10日 ~8月12日 (3日間)
第3回目…2012年11月28日~11月30日(3日間)

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 現地調査結果の詳細は、後述する報告書を参照していただくとして、今回の調査から有明干拓地の特徴として次のことが分かりました。

1) 有明干拓地には、幾筋もの「汐の路」があります。その「汐の路」の上にある土と水は、砂と塩分と天然のミネラルが混じり合い、糖度やこくが美味しさの重要な尺度になり、果物やトマト栽培に適していると言えます。

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2) 2m掘ると海水が湧くような十数cmの砂壌土からなります。表土の管理がトマト栽培のポイントであると言えます。

3) 土壌には、表層から30cm程度下に20cm厚みのオレンジ色の班鉄層が存在します。海水はこの層までやって来てここで止まると考えられます。したがって、その上にある表層部にどの様に水をやるかがトマト栽培の1つのノウハウとなります。

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 何をやるにしてもまずは情報収集という鉄則がここでも生きていますが皆さんどう思われますか。

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テーマ名:四日市ブランド機能性トマト栽培技術の開発
平成23年度成果報告書
                         2012年6月6日
                       三重大学 社会連携研究センター
                         四日市フロント

1. はしがき

 トマトは世界では8,000種を超える品種があり、数多くの健康増進作用が報告されている。我々をはじめ、複数の研究機関が、トマトの抗肥満・メタボリックシンドローム作用に注目している。トマトはイタリアを中心とした地中海食の主要な野菜であり、この地域では高脂肪食を多く食べている割には動脈硬化疾患の有病率が低い理由の一つと考えられている。

 すでに細胞や実験動物、ヒトを用いた疫学調査にて抗肥満作用、特に血中の脂質代謝改善が数多く報告されている。トマトには糖分が多く含まれているにもかかわらず、リコペンやβカロテン、ポリフェノール類などの抗酸化物質が多く含まれているため、抗肥満、特に血中中性脂肪の低下に有効であると考えられている。

 一方、デリカフーズ社と三重大学との共同研究では、ヒト肥満モデルゼブラフィッシュを用いたハイスループット生体評価システムを活用して、トマトの解析を行ってきた。その結果、種系統・生育方法でこれらの有効成分が大きく変化することも判明しており、特に熊本県産のカンパリ種系統塩トマトに顕著な抗肥満作用があることを発見し、そのメカニズムを含め報告した。このカンパリ種系塩トマトは、高脂肪食負荷時の体重増加および血中脂質の増加の抑制に加え、脂肪肝の予防作用を認めた。更に、DNAマイクロアレイチップを用いた肝臓の網羅的遺伝子発現解析では、中性脂肪などの脂質異常症合成経路の低下が認められた。

 図1-1に今回進める研究開発の概要を示す。本研究開発では、カンパリ種系塩トマトの産地である熊本県有明干拓地の土層構造と栽培技術を三重大学にて解析する。試験地である四日市市農業センターでは、土壌と機能性トマトの情報から農地改良を行い、カンパリ種系塩トマトの栽培技術を確立する。その後、地域の生産農家へ技術移転した後、生産されたトマトはデリカフーズが販売し、ビジネス化に向けたマーケティング調査を行う。

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2. 熊本県有明干拓地塩トマトの調査結果

熊本県「塩トマト」栽培農家 現地調査報告(速報)
現地調査記録(三重大学:成岡・廣住、2011.8.11現在筆記)

1) 調査期間
2011.7.9~2011.7.10

2) 調査者
成岡 市(生物資源学研究科教授)
廣住豊一(生物資源学研究科職員)
伊藤幸生(四日市フロント 特任教授)

3) トマト栽培農家
井手謙一 氏 井手農場(T.K.Evolution Farm)
〒861-4124熊本市海路口町453  (海路口町;うじぐちまち)
Tel.090-9603-7539 ideken@orchid.plala.or.jp
http://www.tomato-story.com/index.php
緯度:32.7277度、経度:130.6166度 標高:-1.605m;学科樋門地点〉

4) 井手農場訪問n(20II.7.9(土曜)13:20井手宅)
(1)挨拶後、Q/A談話開始(井手謙一氏、成岡、廣住、伊藤;以上4名、Fig.1)

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Fig.1 廣住・(中央)井手氏・伊藤

(2)機能性トマトについて、三重大学側からの説明。とくに、医学研究科生命支援センターの田井中氏(デリカフーズ社員、社会人院生)のこと、ゼブラ塩トマト栽培を計画していることなどを説明。熊本を先進地の例として視察したい、と付言。

(3)「井手農場」の概要について
① 家族経営をとっている。会社組織ではない。トマト栽培は35年以上の経験、
栽培に試行錯誤を繰り返した(Fig.2)。

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Fig.2 井手農場の直売所外観

② 最初は「大玉」の栽培、ピークは「桃太郎」の栽培から始めた。病気に強い品種は「中玉、小玉」に多いことがわかった。

③ デリカフーズ(田井中氏)と話しがつながり、その後5年のおつきあいがある。偶然出会った「トマトを中身で評価しませんか?」という内容の記事がきっかけであった。その後、井手農場では「トマト物語」をロゴ文字として、パンフレット作成、インターネットURL作成。その後、現在の経営方式としている。

④ 「塩トマト」の栽培に関して、熊本では他の地域が先進的に有名。「塩トマト」(通称)は、育て方のことを総称している。そういう品種があるわけではない。

⑤ トマト部会(読菜部会?)などを含む農協合併前の単独組織の方がやりやすかった(小回りが効いた)。JAの合併によって大きな組織になったら、数量を売らなくては・・・とか、など動きが悪くなった。これらの経緯から、井手農場はこの組織から抜けたが、独立後、必要情報が入りにくくなり困ったことがあった。

⑥ 1800年代に干拓工事があり、干拓完工記念碑として土地改良碑および「瀧神社」(たきじんじや)が建立された(Fig.3)。井手家は、山の麓側から現在地に入植した。昭和2年(1927年)に干拓堤防が切れたことがある。客土はしたことがない。圃場の土壌表面には亀裂が発生しない。地下(汽水)は”ミネラル”の供給をしてくれる、地下汽水の水位の動態を調べる必要を感じている。〈※約200年間も水田として使っていると、水田土壌の劣化が進むことがある。とくに、鉄欠乏症が発生(山土を客土すると回復することがある)場合が多い。〉 下層土には、礫層(地下水がきている)がある、圃場に臭いにおい(海水由来の硫化物など)は発生しない。暗渠は入れている。排水路の水面に「油膜、茶色、黒色の水」などは視認できない。〈※地下水(汽水)の”水みち’’があるが、ほとんどは旧河道の場合が多い。〉

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Fig.3 瀧神社(左)と土地改良記念碑(右)

⑦ トマト栽培のほかに、米(稲)作をしている。この地域はほとんどモチ米、収量8~9俵程度。台風のため背が高い品種は倒伏する。本地域は「風が強い」。

⑧ トマトは病気等には弱いはずだが、エンザ社の品種は強い農薬はピンポイントで与えるだけでよい。潅水をなくても、トマトの根茎は地下水(海水・汽水)をもとめて伸張する。適度な塩ストレス、栄養分が与えられている。糖度8以上の中玉が収穫できた。(Table1)

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⑨ (ビニール)ハウスは建てっぱなしだが、6月から10月までの間、圃場内(旧水田)を湛水防除(線虫等の駆除)を実施する。地下汽水の”水みち’’の分布により、場所(ハウス)毎の塩ストレスの掛かり方、栄養塩類の分布が異なり、トマトの品質も異なる。換言すれば「品質にバラツキがあるが、それは地下汽水の水みちの分布の違い」と理解している。品質の違いの分布は、時期的にも場所的にも異なる。たとえば、海側から山側への位置の違いなど。

⑩ 圃場の耕起は約20cm、ローターが入る程度、トラクターは30馬力。畝たて
Fig.4 耕起用の30HPトラクター(上)とロータリーは約30cm高。ロータリーは3回かける(畝くずし、粗均平、均平)(Fig.4)。

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Fig4. 耕起用の30HPトラクター(左)とロータリー(右)

5) 有明海の「干拓地」について

 調査地を取り巻く本地域は、有明海に面し、坪井川、白川、緑川の3水系の下流部に形成された熊本平野の一部となっている(Fig.5)。有明海沿岸2kmの範囲は、1800年代に干拓工事によって造成され、地盤標高は「海抜-2m以下」と低く、表層地盤は軟弱な粘性
土からなる。地区排水は干拓地堤防の各所に設置されたポンプ排水機場の運転によって制御されている。

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Fig.5 位置図(左上)と空中写真

 井手農場(対象農地)は、この干拓地内のほぼ中央に位置し、平坦な干潟地形をなし、河口部の河床は白川、坪井川によって「阿蘇ヨナ質土壌」が堆積している状況である。「ヨナ」とは、阿蘇火山からの噴出火山灰であり、粒子が細かく吸水性が高い特徴がある。また、雨が降れば泥土化し、乾燥すると固化する(※粘土として例示するならば、アロフェン系またはカオリナイト系の乾燥・収縮挙動に似る?)。

 井手農場を囲む熊本市は、内陸的気象を示し、年平均気温16.9℃、気温の日較差や年較差も大きい。年間降水量は2,000mm前後であり、梅雨期の6~7月に多く、梅雨末期に集中豪雨が発生し、大きな災害を引き起こすことがある。

<参考文献>
熊本市防災会議(2011):熊本市地域防災計画書(平成23年度改訂版)、資料編

6. 井手農場のビニールハウス

 井手農場は、有明海から直線距離で約850mに位置する。水田は1.5haで栽培している。

 トマト栽培を行うハウスは、3棟(南側から1号~3号)建設されている。1棟の平面寸法(概寸)は、85m X18m。調査時は、1号棟;耕起完了直後の状態、2号棟;トマト索撤去、3号棟;トマト索残存の状態であった。1号棟圃場面の耕起深は、ロータリー刃の届く範囲で、14cm~25cm深であった。

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Fig.6 ハウス外観(左段上)、1号棟(同下)、2号棟(右段上)、3号棟(右段下)

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7. 土壌断面調査(2号棟東端)

 土壌断面調査、土壌硬度調査(山中式土壌硬度計)、試料採取(基本的土壌物理性、PF水分特性、軟Ⅹ線画像撮影ほか)を実施した。現在、詳細分析を研究室にて実施中。

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<別紙1> 熊本/井手農場「塩トマト」調査計画書
■期間:
H23(2011)年7月9日(土曜)~10日(日曜)
■井手農場
〒861-4124熊本県熊本市海路口町453 Tel:096-223-1339
 http://www.tomato-story.com/
■参加者:
伊藤幸生(四日市フロント・コーディネーター) 090-9122-0059
成岡 市(三重大学生物資源学研究科・教員)  090-7319-3998
廣住豊一(三重大学生物資源学研究科・教務職員&社会人院生) 090-9920-7517
中部国際空港の全日空カウンター前で45分前の9時20分に集合
■行程:
往路/7月9日(土曜)
なぎさまち 8:00→8:40中部空港
09:20全日空カウンター前集合(伊藤、成岡、廣住)
中部空港10:05(ANA331)⇒ 11:25熊本空港、トヨタレンタカー受付
13:30~17:00 井手農場訪問・作業
18:00 ホテルニューオータニ熊本泊
復路/7月10日(日曜)
10:00~17:00 井手農場作業
熊本空港18:35(ANA336)⇒19:50中部空港
中部空港 ⇒ なぎさまち
■土壌調査(試掘、断面調査、試料採取)
(1)井手農場訪問、ヒアリング
(2)農場内踏査、試掘ポイント(2カ所)選定
(3)試掘、土壌断面調査、試料採取(不擾乱土、擾乱土)
(4)埋め戻し・現況復帰
(5)その他
■持参した土壌調査用具
○スコップ、ツルハシ(井手農場から借用)
○移植ごて&へラ ×2セット
○ホー ×1本
○ミニロット ×2個
○山中式土壌硬度計 ×1個
○土色帖 ×1冊
○円筒(100cc) ×18個(3本)
○円筒(50cc) ×24個(2本)
○三脚型打ち込み器・ディスク・カラー  ×1式
○グリス                ×1瓶
○ハンマー               ×1個
○オルフアカッター刃(L型) ×1箱
○割り箸(または長い釘)        ×10本
○厚手A4版ビニール袋 ×10枚
○ゴミ袋(30Lor45L)          ×5枚
○ビニールテープ            ×5本
○ガムテープ              ×1巻
○ラップフィルム            ×3巻
○軍手 ×3巻
○フェルトペン(黒色、赤色) ×各1本
○デジタルカメラ            ×各自
○名刺、野帳、筆記具、長靴、作業衣、タオル ×各自
○応急処置セット            ×1式



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