(その3)…熊本県有明干拓地の土壌特性調査結果

能性トマト・プロジェクト  平成24年度 共同研究報告
「熊本県有明干拓地の土壌特性調査結果」

2013(H25)年3月22日

三重大学産学連携サテライトオフィス(四日市フロント)
三重大学大学院 生物資源学研究科 流域保全学研究室

1) 高機能トマト栽培における土層管理と水管理
                 出典:杉浦卒論(H25.2)

1. はじめに

 近年、消費の多様化によって高品質・高付加価値の野菜を求める消費者が増加している。たとえば、健康によい栄養素を多く含むトマトが注目されている。また、糖度が8度を超える高糖度トマトも多く生産されている。
 本報告では、高品質トマトが低水分状態における栽培の実態を土層管理、水管理、栽培環境などに注目して調査した結果をまとめた。

2. 調査地と調査方法

2.1 調査地
 調査地は、熊本県熊本市海路口町に位置する「井手農場」で行った。当農場は有明干拓地内のほぼ中央に位置し、有明海から東方へ向かって直線距離で約850mの位置にあり、水田(転換畑)圃場にてトマト栽培がおこなわれている。
2.2 調査方法
 土壌断面調査および試料の採取、聞き取り調査を行った。採取した試料については、基本的物理性測定、飽和透水係数測定、pF水分特性測定、軟X線撮影、化学分析などを行った。

3. 結果

 高品質トマト栽培における土壌環境について、畝立て前後の透水性、間隙率、固相率、飽和度に注目した。
3.1 透水性
 畝立て前後の各層ごとの飽和透水係数をFig.1に示す。畝立て前のI層および畝立て後のIB層は低透水性であったが、畝立て後のIA層では透水性が高くなっていた。なお、IA層およびIB層は、Fig.5に示す通りである。

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3.2 間隙率と固相率
 畝立て前後の各層ごとの間隙率および固相率をFig.2およびFig3に示す。畝立て後のIA層の間隙率は、畝立て前のI層に比べ、10%以上増加していた。
 また、畝立て後のIB層の固相率は、畝立て前のI層に比べて、約7%増加していた。

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3.3 飽和度
 畝立て前後の各層ごとの飽和度をFig.4に示す。畝立て後のIA層およびIB層の飽和度は約50%の差となり、IA層は畝立て前の飽和度より小さく、IB層は畝立て前の飽和度より大きかった。

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4. 考察

 高品質トマトの各栽培ステージにおける土壌環境モデルを考えた。畝立て前後の土壌断面のモデル図をFig.5に示す。

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4.1 畝立て前
 I層の上層部の土は、畝立てによって間隙率が増加し、これがIA層となる。また、I層下部層は、農作業機の踏圧などによって締め固められ、IB層を形成している。
4.2 畝立て後
 畝立てが終わると、畝にマルチが張られ、土壌水分が蒸発しにくい状態がつくられる。さらに、IB層は透水性が低く、灌水された水がIB層に滞る状態となっており、栽培初期のトマトは、専ら畝の中に保持されている水分で成長していると判断できる。
4.3 根の伸長
 栽培段階が進み、畝中の水分が減少すると、根は水分を求めて深層へ根を伸帳する。しかし、本調査地の耕盤層では山中式土壌硬度が25mmあり、一般的に植物の根張りが押さえられる土壌硬度(25mm)を上回っていた。本調査地では、耕盤層に形成されている管状孔隙を通過して、下層まで根を伸ばしていると考えられる。なお、管状孔隙周囲に斑鉄が確認されたので、これは水稲栽培時代に形成された孔隙が保存されていたものと判断した。
また、有明海の干潮時と満潮時の潮位さは大きく、圃場の作土・耕盤・心土の物理・化学性はその潮位変動の影響を受けていると考えられる。根が下層まで伸長することで、地下汽水(海水成分)を利用している可能性がある。実際、化学成分分析結果から、塩基飽和度の標準値が60~80%であるのに対し、I層~Ⅳ層は80%を上回る値を示していた。このことから、土壌環境は塩ストレスが付与されている可能性がある。ここで、塩基飽和度は施肥に影響されることもあり、塩ストレスが実際にトマトに付与されているかどうかは今後継続調査する必要がある。

5. おわりに

 本報告では、畝立て前後の土壌の基本的物理性、透水性に着目し、土壌中の水分状態および根の伸長について考察した。その結果、本圃場土壌は、土壌水分が保持されやすい土壌環境が形成されており、低水分管理下でのトマトの栽培が可能になっていると判断できる。
今後の課題として、本報では未調査であった根の伸長の実態および地下水動向などについて明らかにする必要がある。

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2) 干拓地水田の策土層および耕盤層における粗間隙の形成について
                          出展:古谷修論(H25.2)

1. はじめに

 我が国の農業形態は、従来の水田単作から、転換畑や田畑輪換などのように農地利用が多様化してきている。また、土地の利用方法だけでなく、バイオマスエネルギーや生分解性プラスチックなど、農作物の利用方法も多様化している。環境問題やエネルギー問題といった食料自給以外の役割を農業が果たすことも期待される。平野や干拓地などの大区画化しやすい農地の需要が大きくなると考えられている。

 しかし、干拓地では、通常の農地にはみられない特徴があり、干拓地土壌での土層の変化や実態の解明は、農地の高度利用化にとって極めて重要である。成岡(1991)は、畑地や水田、転換畑、干拓地と種々の条件下の土壌を比べ、土壌物理的機能の違いを整理した。また、佐藤(1992)は、八郎潟の重粘土圃場の土層中の孔隙の連続性について論じた。しかし、八郎潟干拓地は水田の土壌環境や栽培方法などについての実態解明が進んでいる。その一方で、有明干拓地のような砂質土壌の農地や、八郎潟干拓地以外の古くから営農されている干拓地の内土壌の実態解明はそれほど進んでいない。

 本報では、砂質土壌の干拓地の内における土層境界や鉛直方向の土壌物理的現象などを理解するため、基本的土壌物理特性、透水性、厳戒間隙特性、pF水分特性、軟X線影像などの視点から、干拓地土壌における粗間隙の接続性、土壌内物質の移動、および土壌内への大気侵入に対する粗孔隙の意義について考察した。

2. 研究対象地

 熊本県熊本市海路口町の干拓地農地(緯度:32.7277度、軽度:130.6166度、標高-1.605m)において現地調査を行った。この農地は、1800年代に干拓され、有明海に面しており、平均海抜が△2m以下の平たんな地形となっている。

 熊本地域硝酸性窒素削減計画書(2005)によると、熊本地域は阿曽火砕流堆積物が体積した地質であり、透水性が高く、有害物質なども侵入しやすくなっている。加えて、熊本地域南東部の地下では、地質学的な割れ目が多く、多孔質で水を通しやすい砥川溶岩が分布している。そのため、地下水を蓄える機能と、地下水を速やかに平野へ送る機能を同時に有している。

 地下水動態は、まず阿蘇外輪山西麓の山地・丘陵部で涵養され、次いで地下水位分布の平坦地に流下する。熊本平野部に達した地下水は、東から西へ有明海に向かって穏やかに流れ、有明海に流下している。

 調査対象農地は、干拓当初は水田として利用されていたが、現在はトマト栽培農地となっている。

3. 研究方法

 現地調査では、土壌断面調査および試料の採取を行った。採取した試料は、室内実験により、基本的土壌物理性(自然含水比、乾燥密度、土粒子密度、間隙率、塑性・液性、土性)、緩和透水係数、厳戒間隙特性、PF水分特性、軟X線撮影、土壌綿密度などの測定を行った。

(1) 土壌面密度の測定法

 ここで、「土壌面密度」とは「土壌の単位面積あたりの固層の質量」として、次式のように定義される(廣住2012)。
        ρA=Ms/At 1-1
ただし、ρA:土壌面密度(Kgm-2)、Ms:固相の質量(Kg)、At:面積(m2)

 土壌面密度ρAは、ある平面範囲に含まれる固相の質量を示す値である。この面密度を縦軸に、軟X線撮影で得た土壌資料影像の濃度階調値を横軸に各々とった検量線を作り、軟X線撮影で得た不攪乱試料の軟X線影像の密度を測定することができる。

4. 結果と考察

調査した圃場の土層は、「策土層、耕盤層、心土層」分化していた。以下、作土層および耕盤層について考察する。土壌断面をFig.1、各土層の実験結果をTable1~2に各々示す。

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4.1 作土層及び耕盤層の構造
(1) 作土層(Ⅰ層、Ⅱ層)
①Ⅰ層の構造
 作土層の亀裂の深さはⅠ層内で留まっていた。つまり、重粘土圃場の転換期で起こる亀裂による耕盤層の破壊は、調査圃場では起こっていなかった。また、Ⅱ層では壁状の土層となっており、亀裂構造は比較的脆弱なⅠ層で発達することが分かった。

 透水係数では、鉛直方向・水平方向どちらとも難透水性であった。Ⅰ層は連続した孔隙が見られず、水は速やかに浸潤することができない。また、Ⅰ層はほかの土層より粘土分が多く、透水性の小さい土層であった。つまり、Ⅰ層の水移動は、亀裂を経路にする部分流が発生していると考えた。

② Ⅱ層の構造
 Ⅱ層では土層が壁状構造となっていた。これは、畝立てなどによる耕起深さがⅠ層に限定されていると考えた。
 透水係数は、鉛直・水平方向どちらもⅠ層より大きい。これは、トマトの根などによって形成された管状孔隙が網目状に立体形成されているため、透水や通気が良好な土層となっていると考えた。つまり、作土層は難透水性であり、亀裂以外の間隙が少ないⅠ層と、良透水性で作物根によって形成された管状孔隙が多いⅡ層によって形成されていると理解した。

(2) 耕盤層(Ⅲ層)
① Ⅲ層の構造
 耕盤層は、明瞭な壁状構造となっており、立体的な間隙の繋がりが少ない構造である。透水係数については、鉛直方向に対して水平方向の方が高かった。しかし、Ⅲ層においては、亀裂をほとんど視認できなかった。つまり、亀裂は水平方向の透水性についての役割を果たしているのではなく、亀裂が形成されることによって、管状孔隙と接続する面積を増大させる役割があると考えた。

 また、鉛直方向の管状孔隙の回りには斑鉄形成が見られた。従って、この管状孔隙は水稲湛水栽培を行う水田期間に形成された孔隙と推定した。転換畑では通常、暗渠管まで亀裂が伸び、耕盤層を破壊することがある。この調査農地では、亀裂が耕盤層に到達していなかった。山中式土壌硬度は27mmであり、根の伸長制限値の25mmを超えていた。したがって、心土層まで根が伸長することは困難であると考えた。しかし、本調査では、大小さまざまな内径の環状孔隙が斑鉄形成を伴って保存されており、それが孔隙を通り心土層まで達していたと考えられた。

② 斑鉄形成
 斑鉄形成によって保存された管状孔隙は、土壌面密度の分析結果からも理解できる(Fig.2、Fig.3)。

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 面密度の3Dグラフ(Fig.2)では、孔隙辺縁部の密度が大きくなり、斑鉄部分の密度が高くなっていた。この特徴は、斑鉄が形成した管状孔隙のみに現れ、斑鉄が形成していない管状孔隙ではこのような密度分布はなかった。

 面密度断面グラフ(Fig.3)より、円構造に近い断面の斑鉄形成を成した孔隙について、孔隙径の大小にかかわらず孔隙の辺縁から200~300μm基質側にはいった位置に密度のピークが現れることが分かった。このことより、斑鉄が形成された管状孔隙の強度は、斑鉄形成が無い管状孔隙より高くなっていることがわかった。そして、鉄の沈殿集積が起こっている位置が、孔隙の辺縁から200~300μm基質側に入っているため、孔隙強度が高くなることがわかった。

 以上のことから、耕盤層は根が伸長困難な硬度であり、亀裂形成された跡もない壁状構造の層となっているが、斑鉄形成を伴う管状孔隙により、鉛直方向への速やかな通気・透水が発生している層となっていた。

4.2 作土層表層の亀裂の特性
表層の土性は砂質埴譲土であった。表土の亀裂は15cmほどの深さに広がり、亀裂で囲まれた表土の平均面積は633.8cm2であった。亀裂には、交角がほぼ90度で、T字型に発生するという特徴があった。
 伊藤ら(1988)は、ベントナイトに砂を混合する場合、砂分が多くなるにつれて、亀裂の交角が大きくなり、Y字型に発生することを示している。また、試料総重量の40%を砂が占めるようになると、亀裂が明瞭に入らないと報告している。
 しかし、この圃場では、砂分が70%以上含まれる土壌であるにも関わらず、明瞭な亀裂形成が見られた。伊藤らは、試料に厚みがあると、収縮による亀裂幅は大きくなることを示している。また、同じ干拓地でも重粘土圃場である八郎潟干拓地の亀裂は、30cm~45cmの深さまで入ることがある(農業土木学会、1972)。

 このことから、重粘土圃場にみられるような大規模な収縮が起こらない理由として、砂分が多いことにより、作土層表層の年度の収縮量が抑えられることにより、作土層表層の粘土の収縮量が抑えられたことと考えた。そのため、耕盤層に至る亀裂は発生しなかった。

4.3 粗間隙の形成
 上述の各土層の特徴および考察より、調査圃場の各土層の間隙モデルをFig.4に示した。また、各土層の間隙の特徴をTable3に示した。

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(1) Ⅰ層(作土層上層)の間隙構造
 Ⅰ層の間隙は、乾燥亀裂のみが発達し、土壌自体は単粒構造となっていた。調査圃場では、トマト栽培の後、畝を戻し、圃場を一か月半湛水し、その後水抜きを行っている。土壌乾燥し、一定の地耐力を得たら再度耕起している。そのため、湛水後の表土では土壌構造が単粒化していると考えた。発生した亀裂は、通気、透水の経路となる。

(2) Ⅱ層(作土層下層)の間隙構造
 Ⅱ層の間隙構造は、粗孔隙形成が明瞭で、粗孔隙が立体的な広がりを持ち、速やかな廃水を促している層となっていた。
 Ⅱ層の間隙構造は、トマトの根によって形成された管状孔隙が主体と考えた。Ⅲ層は堅い土層のため、根は水平方向へ伸長する層であった。そのため、縦横のつながりを持った立体的な環状孔隙が、通気、透水の経路となっている。

(3) Ⅲ層(耕盤層)の間隙構造
 Ⅲ層の間隙構造は、鉛直方向の大小様々な管状孔隙が斑鉄により保存された構造となっていた。斑鉄により保存されている間隙径が、1mm以上のものもあった。そのため、排水性が良く、心土層に根が伸長するときに、1mm程度の孔隙が主経路となっていた。

 つまり、間隙径によって、水・大気の移動、根の伸長に関わる役割が異なり、圃場の物質移動、作物成長に対して重要な影響を与えている。

(4) Ⅳ層、Ⅴ層(心土層)の間隙構造
 Ⅳ、Ⅴ層の間隙構造は、心土へ伸長したトマトの根によって形成された管状孔隙が存在する構造となっていた。Ⅳ層は、耕盤層直下の土層であるため、根の広がりは良く、Ⅱ層ほどではないが垂直・水平方向の伸長は乏しいため、間隙構造は鉛直方向の孔隙が水平方向の孔隙より多くなっていた。しかし、全体的に孔隙数は少なく、壁状構造になっていた。

 つまり、根の伸長はⅤ層付近で少なくなり、これ以深で根が伸びているとは考えにくい。そのため、水平・垂直方向の間隙のつながりは不明瞭となっていると考えた。

4.4 各土層の亀裂および管状孔隙の接続性
 以上のことから、Ⅰ層からⅤ層までの鉛直方向の間隙の接続性をまとめるため、接続性の模式図をFig.5~6に示した。

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(1) Ⅰ層(作土層上部)での間隙の接続性
 Ⅰ層は、湛水下では亀裂が発生しないため、浸透による水移動が主体となる。表層の排水性は低く、Ⅱ層目との接続性も少ない。しかし、湛水が止まり、表面に亀裂が入ると、Ⅱ層へ速やかに通気・透水が発生する。

(2) Ⅱ層(作土層下部)での間隙の接続性
 Ⅱ層では水平・垂直方向への通気性や透水性が大きい。そのため、Ⅱ層の間隙を通過する水や大気は、Ⅲ層に到達すると水平方向に向かい、Ⅲ層の通気・透水の主体となる管状孔隙と連絡している。

(3) Ⅲ層(耕盤層)での間隙の接続性
 Ⅲ層では、管状孔隙が垂直方向に伸長しているため、鉛直方向への移動が容易に行われている。管状孔隙の外側に斑鉄が形成されているため、速やかに下層へ物資移動が行われている。つまり、耕盤層を有して通気、透水の経路を保存しているため、作土層と心土層をつなぐ重要な役割を果たしている。

(4) Ⅳ層、Ⅴ層(心土層)での間隙の接続性
 Ⅳ層では、管状孔隙の広がりはⅡ層ほどではないが大きくなるため、水や大気の水平・垂直方向への移動が容易となっている。Ⅲ層の間隙との接続性も強い。
 Ⅴ層では、管状孔隙の広がりが少なく、水や大気の鉛直方向への移動が主体となる。Ⅳ層から伸びた根がⅤ層の管状孔隙を作り、Ⅳ層の間隙との接続性を高めている。

 このように、Ⅰ層が湛水されている間は、Ⅰ層で水の浸透があるが、大気の侵入は無い。Ⅰ層目に亀裂が入り、Ⅱ層目と亀裂が接続された後は、比較的速やかに大気の侵入が行われると考えた。特に、鉛直・水平への水移動が速やかなⅡ層、Ⅳ層の間は、保存・強化された孔隙が耕盤層にあるため、作土層と心土層の接続が保たれ、圃場全体の鉛直方向への物質移動に重要な役割を果たしている。

4.5 地下水位の変動による粗間隙の影響
 調査地(干拓地)に隣接する有明海は、潮汐による潮位差が大きい。調査地では、平均潮位差はおよそ2~3mである。この潮汐により地下汽水位の変動が起こり、粗間隙内に踏圧がかかる。そのため、引き潮時と上げ潮時での粗間隙の影響を考察した。また、引き潮時、上げ潮時による影響をFig.7~8に示した。

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(1) 下げ潮時
引き潮により海面が後退し、地下水位が深くなる。そのため、土壌に負圧がかかり、孔隙を通して下方への水移動が行われる。圃場が湛水状態であれば、地表面から土壌内への大気侵入は無く、水分移動のみが発生する。つまり、湛水時期による下げ潮は、湛水状態で分解される有機物から精製された栄養塩や、還元状況下で生成するガス成分が土壌水中に溶け込み、さらに負圧の働きにより下方へ移動する。
潮汐変動は、一日に2周期あり、一度の引き潮により土壌中にかかる負圧が並行する前に、上げ潮により移行すると考えられる。そのため、引き潮・上げ潮を繰返し、徐々に下方への水移動が促進されている。これにより、表層部の過剰な栄養塩の蓄積を止めることができ、ガス生成の原因物質や、作物にストレスを与える物質の排除の役割も持っている。
圃場表面に亀裂が入っている状態であれば、水の移動と同時に大気侵入も始まる。さのため、酸化状態となる土層では、窒素固定のような、溶脱していた栄養塩が無機物として土壌に固定される場合がある。

(2) 上げ潮時
上げ潮により海面が上昇することで、地下水位が浅くなり、毛管上昇により上方への水移動が行われる。そのため、熊本平野から流れてきた地下水と海水が混ざった汽水の水位が上昇し、根に対するストレスがかかりやすくなる。また、地下水による、ミネラル分の作土層への補給も発生していると考えた。

5. おわりに

本報は、砂質土壌の干拓地の土壌構造の解明を目的として、土壌物理性、管状孔隙の形成、接続性の面から考察した。その結果、以下のことを明らかにした。

(1) 重粘土圃場で起こる亀裂による耕盤層の破壊により、心土層への大気疎通が砂質土壌干拓地では起こらない。
(2) 耕盤層の斑鉄形成により保存された管状孔隙により、作土層と心土層の物質移動に関わる接続性が保たれる。
(3) 鉛直方向の間隙の接続性が保たれることによって、地下水位変動による、水分・ガス移動の促進が行われる。



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