補助金申請における失敗に学ぶ

 2011年から2015年の5年間かけて、「四日市ブランド機能性トマトの開発」という産学連携プロジェクトを進めました。機能性トマトとは、カンパリ種のトマトで、リコペン、ポリフェノールといった抗酸化成分が多く含まれ、人間のメタボによく効くことが分かっています。

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 今回のプロジェクトは2009~2010年にかけて実施された、三重大学医学部とデリカフーズ㈱との共同開発研究テーマが基盤となっています。その概要は下記の通りです。

1. 三重大でのゼブラフィッシュ

 三重大学の医学部では、ゼブラフィッシュという魚を使ってトマトの成分と人間のメタボの関係を研究しています。皆さんゼブラフィッシュはご存知ですか。めだかの親戚です。このゼブラフィッシュの遺伝子数は人と同じで、配列の一致度は80%です。従って、ゼブラフィッシュを用いて実験すれば、人間で実験しているのと同じ情報が得られます。皆さん、ねずみを使って行われる動物実験はご存知ですよね。これは今や動物の殺生という倫理問題が絡んで簡単に実験できなくなりました。そこで登場したのがこのゼブラフィッシュです。しかも、この大きさ3cmほどの小さな魚が、一回で数百匹を孵化するので、動物実験をやる前のスクリーニングテストに用いることができるという優れ物です。

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 写真に示すように、正常であればかわいい魚ですが、意図的にメタボなメダカを飼育して、実験に使います。三重大学がこのゼブラフィッシュを使って、カンパリ種トマトが人間のメタボに有効な野菜であることを明らかにしてくれました。何が解かったかと言いますと、このメタボを抑えるには抗酸化物質が良く効くことが解りました。そしてカンパリ種トマトには、リコペンやβカロテン、ポリフェノールといった抗酸化物質が多く含まれているのです。この辺の医学的な調査を三重大で以前からデリカフーズという食品メーカーと組んでやっていました。

2. 体重変化

 これは体重変化についての具体的なデータを示したものです。縦軸に体重を取り、横軸にはトマトを食べ続けた期間を取っています。肥満飼育した場合の体重変化が一番上のラインです。時間と共にどんどん増えて行くのが判ります。通常飼育は一番下のラインです。このメタボなゼブラフィッシュに肥満飼育の餌とカンパリ種塩トマトを一緒に与えます。すると、どうでしょうカンパリ種の塩トマトを食べたものは太らないことがわかります。

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3. 血中中性脂肪

 これは血中中性脂肪の量で比較したものです。カンパリ種の塩トマトを与えたものは、血中中性脂肪も増えていないことがわかります。

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4. 脂肪肝

 これはゼブラフィッシュの肝臓を組織観察したものです。 肥満飼育したものは、組織中に赤くなっている部分がたくさんあります。これは脂肪分を示しています。カンパリ種の塩トマトを与えたものは、この脂肪分が消えています。

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 プロジェクトの発足当時は活気あって華々しかったのですが、第一の厳しい関門が待っていました。それは補助金が全く手当てできなかったことです。合計2億1千万円ほど申請しましたが、悉く跳ねられました。今回はなぜ申請が採択されなかったのかその原因について反省を込めて検討してみます。

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2011年度三井物産環境基金 東日本大震災復興基金 500万円 

 申請書の概要は下記の通りです。

 研究の目的は、大津波被災した三陸地域農地の土壌機能を復元させ、農業生産地として
の復興を目的とするというものです。

 我々が提供する基本技術は、三重大学と㈱デリカフーズの間で実施された食餌性肥満ゼブラフィッシュを用いた研究結果です。塩トマトにおいては抗肥満効果が得られています。今回の研究開発では、四日市地区で、土層・土壌の復元法の開発を実施し、ここで得られた技術を三陸地域農地にて適用し、土壌機能を復元させ、農業生産地としての復興を図ることを考えています。

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 結論としては不採択でした。その主な理由は、この研究開発では被災地である三陸地域の農家および研究機関との連携という形で行われるべきであるというものです。三重大学と四日市の農業センターの思いだけで動いていて、被災地の思いが反映されていないというものです。

2011~13 農水省「農林水産物・食品の機能性等を解析・評価するための基礎技術の開発 3年-1億 」
                                 
テーマ…「抗肥満・抗シス体リコペントマトの生育技術の研究開発」

 研究の目的…抗肥満・抗メタボリックシンドローム作用をより強化したトマト品種の検索および同定、そして生育法の開発を目的とする。

 研究の概要…これまでの我々の研究グループの研究成果から、トマトの最も重要な抗酸化物質であるリコペン、特に腸管吸収性に優れているシス型リコペンとベータカロテンが内蔵死亡蓄積、脂質異常症、脂肪肝の抑制に有効であると考えている。本研究提案は、実験モデル動物(肥満モデルゼブラフィッシュ)、ヒト肥満者を用いた介在実験を通してこれらの抗酸化物質の抗メタボリックシンドローム作用の機能とそのメカニズムを明らかにし、さらにこの機能性トマトの大量生育技術の機能を確立する。

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 結論は不採択となった。その理由は、機能性トマトについては、これまでに色々な機関が開発を手掛け、成分だけを抽出して機能性食品として開発が進められている。今回は、トマトそのもので機能性をうたっているが、技術的には目新しいものではない。

2012~14 農水省「新たな農林水産を推進する実用技術開発事業」 3年-1億

 テーマ…「抗メタボ・トマトの生育・土層構造改良技術の開発」

 研究概要…熊本トマト産地の土層構造を三重大(生物資源)にて解析し、試験地である四日市市農業センターの土層を改良したのちトマトの試験栽培を行う。生産されたトマトは、三重大(医)にて肥満動物実験試験、機能性食品研究所にて肥満者を用いた介在試験を行い、抗肥満作用を確立する。その後、三重県北勢地区での実証試験を行い、地域へ技術移転する。このトマトはデリカフーズが販売し、ビジネス化に向けたマーケティング調査を行う。

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 結論…結論は不採択となった。その理由は、機能性トマトについては、これまでにカゴメなどの色々な機関が開発を手掛け、成分だけを抽出して機能性食品として開発が進められている。今回は、トマトそのもので機能性をうたっているが、技術的には目新しいものではない。

 結局各担当分野ごとに手弁当で技術開発を進めて行かざるを得ませんでした。軍資金がないと研究開発は非常にむつかしくなります。



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