(その7)…機能性トマト栽培マニュアル

1. はじめに

 トマトはナス科の野菜で、生食用、加工用共に多用されている。年間消費量は76万トンで、年間当り1人9kg、日本人は2日に1個の割合で食べている計算になる。野菜の中での消費量の順位は、大根、ジャガイモに次いで常に5位以内に入っている。また、単価が130円/個前後と結構高いので、売上額は野菜の中で1番となっている。現在は、木曽崎や長島にその地位を奪われているが、実は、四日市市もかつてはトマトの一大産地であった。四日市はコンビナートを持つ工業の町であるが、昔は農業でも頑張っていた。

 トマトの種類についてみると、現在世界には約8,000種類のトマトがある。トマトの種類の分け方で最も判り易いのが、図1に示す大玉、中玉、ミニトマトというサイズによる分類である。大玉は1個200grもあり、中玉は1個50~60gr、ミニトマトは20~30grとなっている。四日市のトマトの主流は「桃太郎」という名を持つ大玉のトマトで、最近では、桃太郎の高糖度トマトも出始めている。カンパリトマトは中玉で、リコぺンといったメタボに効く抗酸化作用を持つ成分を含むので、機能性トマトと呼ばれている。トマトはイタリアを中心とした地中海食の主要な野菜であり、この地域では高脂肪食を多く食べている割には動脈硬化疾患の有病率が低い理由の一つと考えられている。

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 この様に、トマトは非常に人気があり、種類も豊富ということで、四日市市でもそろそろ四日市ブランドトマトを世に出す必要性を感じ始めたところである。

2. 肥満モデル動物を用いたトマトの機能性試験

 すでに細胞や実験動物、ヒトを用いた疫学調査にて抗肥満作用、特に血中の脂質代謝改善が数多く報告されている。トマトには糖分が多く含まれているにもかかわらず、リコペンやβカロテン、ポリフェノール類などの抗酸化物質が多く含まれているため、抗肥満、特に血中中性脂肪の低下に有効であると考えられている。

 一方、三重大学の医学部は、デリカフーズ(株)との共同研究として、ゼブラフィッシュという魚を使ってトマトの成分と人間のメタボの関係を研究してきた。ゼブラフィッシュはめだかの親戚で、ゼブラフィッシュの遺伝子数は人と同じで、配列の一致度は80%と高い。従って、ゼブラフィッシュを用いて実験すれば、人間で実験しているのと同じ情報が得られる。ねずみを使って行われる動物実験は、今や動物の殺生という倫理問題が絡んで簡単に実験できなくなっている。そこで登場したのがこのゼブラフィッシュである。

 大きさ3cmほどの小さな魚が、一回で数百匹を孵化するので、動物実験をやる前のスクリーニングテストに用いることができるという優れ物である。図2-1に示すように、正常であればかわいい魚であるが、意図的にメタボなゼブラフィッシュに飼育して、実験に使っている。三重大学がこのゼブラフィッシュを使って、カンパリ種トマトが人間のメタボに有効な野菜であるかどうかを検討した。その結果、カンパリ種トマトには、リコペンやβカロテン、ポリフェノールといった抗酸化物質が多く含まれており、メタボを抑えるには抗酸化物質が良く効くことが解っている。

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2-1.  体重変化

 図2-2に体重変化についての具体的なデータを示す。縦軸に体重を取り、横軸にはトマトを食べ続けた期間を取っている。肥満飼育した場合の体重変化が一番上のラインで、時間と共にどんどん増えて行くのが判る。通常飼育は一番下のラインで、このメタボなゼブラフィッシュに肥満飼育の餌とカンパリ種塩トマトを一緒に与えると、カンパリ種の塩トマトを食べたものは太らないことがわかる。

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2-2.  血中中性脂肪

 図2-3は血中中性脂肪の量で比較したもので、カンパリ種の塩トマトを与えたものは、血中中性脂肪も増えていないことがわかる。

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2-3.  脂肪肝

 図2-4はゼブラフィッシュの肝臓を組織観察したもので、肥満飼育したものは、組織中に赤くなっている部分がたくさん認められる。これは脂肪分を示しており、カンパリ種の塩トマトを与えたものは、この脂肪分が消えてる。

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3. 熊本県有明干拓地井手農家の土壌特性と塩トマト栽培方法
 
3-1.  熊本有明干拓地の特徴

 調査地を取り巻く本地域は、有明海に面し、坪井川、白川、緑川の3水系の下流部に形成された熊本平野の一部となっている(図3-1)。有明海沿岸2kmの範囲は、1800年代に干拓工事によって造成され、地盤標高は「海抜-2m以下」と低く、表層地盤は軟弱な粘性
土からなる。地区排水は干拓地堤防の各所に設置されたポンプ排水機場の運転によって制御されている。

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 井手農場(対象農地)は、この干拓地内のほぼ中央に位置し、平坦な干潟地形をなし、河口部の河床は白川、坪井川によって「阿蘇ヨナ質土壌」が堆積している状況である。「ヨナ」とは、阿蘇火山からの噴出火山灰であり、粒子が細かく吸水性が高い特徴がある。また、雨が降れば泥土化し、乾燥すると固化する。

 井手農場を囲む熊本市は、内陸的気象を示し、年平均気温16.9℃、気温の日較差や年較差も大きい。年間降水量は2,000mm前後であり、梅雨期の6~7月に多く、梅雨末期に集中豪雨が発生し、大きな災害を引き起こすことがある。

3-2.  井手農場のビニールハウス

 井手農場は、有明海から直線距離で約850mに位置する。水田は1.5haで栽培している。トマト栽培を行うハウスは、3棟(南側から1号~3号)建設されている。1棟の平面寸法(概寸)は、85m X18m。調査時は、1号棟;耕起完了直後の状態、2号棟;トマト索撤去、3号棟;トマト索残存の状態であった(図3-2)。

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3-3.  井手農場土壌断面調査(2号棟東端)

 図3-3に調査対象地の位置関係を示す。土壌・土層構造を、研究統括者でもある成岡らが採取・解析したところ、アロフィン系あるいはカオリン系の微弱粘性土、阿蘇ヨナ質土壌が主体であり、さらに地下2m以内の所には、“汐の路”が走っており、満潮・干潮に伴って、その水位がトマトの生育に影響する高さまで変化していることが認められた。

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 図3-4には土壌断面を示す。地表から30cm下の所には、オレンジ色の層が確認されており、この部分には潮の満ち引きの際の酸化・還元反応に伴って形成されたミネラル分が豊富に存在することが認められている。

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3-4.  井手農場でのトマト栽培における水管理方法

 表3-1に井手農家で栽培しているトマト品種の一覧を示す。エンザ社の品種は病気に強く、農薬はピンポイントで与えるだけでよい。潅水をなくても、トマトの根茎は地下水(海水・汽水)をもとめて伸張するので、適度な塩ストレス、栄養分が与えられている。そのため糖度8以上の中玉が収穫できている。

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 ビニールハウスは建てっぱなしだが、6月から10月までの間、圃場内(旧水田)を湛水防除(線虫等の駆除)を実施する。地下汽水の”水みち’’の分布により、場所(ハウス)毎の塩ストレスの掛かり方、栄養塩類の分布が異なり、トマトの品質も異なる。換言すれば「品質にバラツキがあるが、それは地下汽水の水みちの分布の違い」と理解している。品質の違いの分布は、時期的にも場所的にも異なる。たとえば、海側から山側への位置の違いなど。

 土壌には、表層から30cm程度下に20cm厚みのオレンジ色の班鉄層がある。海水はこの層までやって来てここで止まる。表層部をどの様に水を与えるかがノウハウ。トマトの根の張り方は、広く深くが一般論であるが、実際はマルチを被せ下方へ根が伸びるようにしている。

 井手農家の水管理の手法は、根が硬盤に届くまでは水が必要である。基本的には、
① 第1段~第3段までは、根を十分に張らせる。そのためには水は十分に与える。
② 第5段~第7段までは、水を意図的に絞る。目安は一番上の葉が萎れる程度。

 一端根が硬盤に達すれば水を絞る。硬盤では、上根を抑え、最初の深い根を入れる。

3-5.  井手農家の土壌分析
  
 井手農家の土壌分析結果については、平成24年度の卒論と修論にまとめられているので、ここではそのポイントのみを示す。

3-5-1. 卒業論文「高機能性トマト栽培における土層管理と水管理」
         流域保全学教育研究分野 杉浦 麻菜美 (指導教員: 成岡 市)

 本報告では畝立て前後の土壌の基本的物理性、透水性に注目し、土壌中の水分状態および根の伸張について考察している。その結果、以下のことが明らかとなった。
本圃場土壌は、土壌水分が保持されやすい土壌環境が形成されており、低水分菅理下でのトマトの栽培が可能になっている。

 図3-6に畝立て前後の各層ごとの飽和透水係数示す。畝立て前のI層および畝立て後のIB層は低透水性であったが、畝立て後のIA層は透水性が高くなっていた。なお、IA層およびIB層の位置関係は図3-7に示す通りである。

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 図3-7は高品質トマトの各栽培ステージにおける土壌環境モデルで、畝立て前後の土壌断面を示す。畝立て前は、I層の上層部の土は、畝立てによって間隙率が増加し、これがIA層となる。また、I層下層部は、農作業機の踏圧などによって締め固められ、IB層を形成している。

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 畝立てが終わると、畝にマルチが張られ、土壌水分が蒸発しにくい状態がつくられる。さらに、IB層は透水性が低く、灌水された水がIB層に滞る状態となっており、栽培初期のトマトは、専ら畝の中に保持されている水分で成長していると判断できる。

3-5-2.  修士論文「干拓地水田の作土層および耕盤層における粗間隙の形成について」
         流域保全学教育研究分野 古谷 (指導教員: 成岡 市)

 本報告では、砂質土壌の干拓地の土壌構造の解明を目的として、土壌物理性、管状孔隙の形成・接続性の面から考察している。その結果、以下のことを明らかにした。
(1) 重粘土圃場では、亀裂による耕盤層の破壊により、心土層への大気疎通が起こるが、砂質土壌干拓地ではこれが起こらない。
(2) 耕盤層の班鉄形成により保存された管状孔隙により、作土層と心土層の物質移動に関わる接続性が保たれる。
(3) 鉛直方向の間隙の接続性が保たれることによって、地下水位変動による水分・ガス移動の促進が行われる。

1) 各土層の間隙の特徴

 図3-8に灌水時の間隙構造、図3-9に表面乾燥時の間隙構造を比較して示す。

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 I層(作土層上部)は、灌水下では亀裂が発生しないため、浸透による水移動が主体となる。表層の排水性は低く、Ⅱ層目との接続性も少ない。しかし、灌水が止まり、表面に亀裂が入ると、Ⅱ層へ速やかに通気・透水が発生する。

 Ⅱ層(作土層下部)では、水平・垂直方向への通気性や透水性が大きい。そのため、Ⅱ層の間隙を通過する水や大気は、Ⅲ層に到着すると水平方向に向かい、Ⅲ層の通気・透水の主体となる管状孔隙と連絡している。

 Ⅲ層(耕盤層)では、管状孔隙が鉛直方向に伸長しているため、鉛直方向への移動が容易に行われている。管状孔隙の外側に班鉄が形成されているため、速やかに下層へ物質移動が行われている。つまり、耕盤層を有して通気、透水の経路を保存しているため、作土層と心土層をつなぐ重要な役割を果たしている。

 Ⅳ層(心土層)では、管状孔隙の広がりはⅡ層ほどではないが大きくなるため、水や大気の水平・鉛直方向への移動が容易となっている。Ⅲ層の間隙との接続性も強い。

Ⅴ層(心土層)では、管状孔隙の広がりが少なく、水や大気の鉛直方向への移動が主体となる。Ⅳ層から伸びた根がⅤ層の管状孔隙を作り、Ⅳ層の間隙との接続性を高めている。

 この様にⅠ層が灌水されている間は、Ⅰ層で水の浸透はあるが大気の侵入は無い。Ⅰ層目に亀裂が入り、Ⅱ層目と亀裂が接続された後は、比較的速やかに大気の進入が行われる。特に、鉛直・水平への水移動が速やかなⅡ層、Ⅳ層の間は、保存・強化された孔隙が耕盤層に保たれ、圃場全体の鉛直方向への物質移動に重要な役割を果たしている。

2) 地下水位の変動による粗間隙の影響

 調査地(干拓地)に隣接する有明海は、潮汐による潮位差が大きい。調査地では、平均潮差はおよそ2~3mである。この潮汐により地下汽水位の変動が起こり、粗間隙内に負圧がかかる。そのため、引き潮時と上げ潮時での粗間隙の影響を考察した。また、引き潮時、上げ潮時による図3-10と図3-11に示した。

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(1)  下げ潮時

 引き潮により海面が後退し、地下水位が深くなる。そのため、土壌に負圧がかかり、孔隙を通して下方への水移動が行われる。圃場が湛水状態であれば、地表面から土壌内への大気進入は無く、水分移動のみが発生する。つまり、湛水時期による下げ潮は、湛水状態で分解される有機物から生成された栄養塩や、還元状況下で生成するガス成分が土壌水中に溶け込み、さらに負圧の働きにより下方へ移動する。

 潮汐変動は、一日に2周期あり、一度の引き潮により土壌中にかかる負圧が平衡する前に、上げ潮へ移行すると考えられる。そのため、引き潮・上げ潮を繰り返し、徐々に下方への水移動が促進されている。これにより、表層部の過剰な栄養塩の蓄積を止めることができ、ガス生成の原因物質や、作物にストレスを与える物質の排除の役割も持っている。

 圃場表面に亀裂が入っている状態であれば、水の移動と同時に大気進入も始まる。そのため、酸化状態となる土層では、窒素固定のような、溶脱していた栄養塩が無機物として土壌に固定される場合がある。

(2)  上げ潮時

 上げ潮により海面が上昇することで、地下水位が浅くなり、毛管上昇により上方への水移動が行われる。そのため、熊本平野から流れてきた地下水と海水が混ざった汽水の水位が上昇し、根に対する塩ストレスがかかりやすくなる。また、地下水による、ミネラル分の作土層への補給も発生していると考えた。

4. 四日市農業センターにおけるトマト栽培について

4-1.  第1期栽培(平成23年11月8日~平成24年3月15日 冬場)

4-1-1.  栽培計画

 表4-1に栽培計画を示す。今回購入した苗木の品種は、熊本井手農家で使用されているカンパリ種(有限会社ベストクロップ、1苗230円前後)と四日市の上杉農家で使用されている桃太郎はるかである。

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 今年は初めての年であるため、それらの品種を用いて水欠乏で高糖度トマトを生産できるかを検討する予定。ここで様々な起こり得るであろう問題を解決して行きながら技術構築を目指す。まずは、井手農家と上杉農家のトマトの味に近づけることができるかどうかを確認し、その後、土壌改良などを行なうことで、更なる品質向上と技術確立を図る。

4-1-2.  苗木の準備

 保木に使用している「カンパリ」は、オランダのエンザ社の品種で、ミディトマトに分類される。井手農家ではこれを使用して「塩トマト」を生産しているため、今回使用した。

 もう一方の保木に使用している「桃太郎はるか」は、タキイ種苗の品種で、果形が220gr程度になる大玉種である。上杉農家では同じ大玉品種の「桃太郎ヨーク」を使用しているが、「桃太郎はるか」の方が、低温期の栽培性が高いため、今回はこちらを使用した。低温期の栽培性が高いとは、低温・少日照下での果実の肥大力が安定し、低温伸長性に優れるので、長期栽培にも適することを意味する。(写真4-1)

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                写真4-1 苗木の準備

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 台木に使われている「ブロック」は、サカタのタネで販売されている台木品種で、萎凋病やトマトモザイクウィルスに抵抗性があり、草勢は中程度である。今回は両方の台木に使用されている。(写真4-2)





4-1-3.  畝の準備

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 トマト栽培を行うハウスは、平面寸法20m×5.4mで、その中に2畝準備し、片方にカンパリ種塩トマト他方に桃太郎はるかを植えた。

 桃太郎はるかの畝には、写真4-3に示すように一部穴が掘られている。ここには、穴の底にマルチを張って根を張らさないようにし、また、株間を20cmとし密植させる。こうすることで、実が大きくなり水のやりとりが辛くなるため、高糖度化させることができる可能性がある。



4-1-4.  カンパリ種系塩トマトおよび桃太郎はるかの栽培概要

 図4-1に四日市農業センターで実施したカンパリ種および桃太郎(はるか)の栽培概要を示す。写真4-4(a)(b)(c)にカンパリ種塩トマトの生育状況を示す。

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 第1期栽培を通しての反省点は下記の通り。
(1) 黄化葉巻病の対策を徹底する必要あり。具体的には、抵抗性品種の導入、コナジラミ対策の実施がある。
(2) 半促成栽培になってしまったので、作型を早める(10月定植)。
(3) 糖度が思ったほど上がっていない。理由としては、病気の影響、摘心したため葉数が確保できなかったため、が考えられる。
(4) カンパリ種は温度が上がると、玉が軟化してしまう傾向がある。

4-1-5. トマト成分測定結果

 表4-2にデザイナーズフーズで実施したトマト成分の測定結果を示す。今回の栽培で、抗メタボに対して効果のある抗酸化性成分は、カンパリ種に特有のものであることが確認できた。また、四日市の土壌で機能性トマトを栽培することは可能であることも確認できた。

              表4-2 トマト成分測定結果

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4-2.  第2期栽培(平成24年5月1日~平成24年8月27日 夏場)

4-2-1.  栽培品種区分

① カンパリ種(中玉)…120株
 熊本井手農家の塩トマトと同一品種。四日市農業センターの土壌で育てたものが、どの程度の機能性を示すかを評価することが第1目的。

② フルティカ(中玉)…120株
 カンパリ種以外の中玉であるフルティカで、機能性がどのように現れるかを調査することを目的とする。

③ アニモ(大玉)…10株
 機能性が中玉特有のもので、大玉には現れるのかどうかを調査することを目的とする。

4-2-2.  栽培概要

 図4-2に四日市農業センターで実施したカンパリ種(中玉)、フルティカ(中玉)、アニモ(大玉)の栽培概要を示す。また、写真4-5にフルティカ(中玉)とアニモ(大玉)の生育状況を示す。

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4-2-3. トマト成分分析結果

 表4-3に四日市農業センターで実施したカンパリ種(中玉)、フルティカ(中玉)、アニモ(大玉)のトマト成分分析結果を示す。

                 表4-3トマト成分分析結果

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① 上杉農家の高糖度トマト“桃太郎はるか”で、抗酸化力が36.5、リコペン15.1とカンパリ塩トマト並またはそれ以上の値を示した。
② フルティカ中玉、アニモ大玉でも段数が進むと抗酸化力の値が増加していく。
③ これらのことから次のことがわかる。
  (1) 同じハウス内で同一生産者による栽培では、大玉よりも中玉の方が機能性は付けやすい。
  (2) しかし、大玉でも栽培方法を上手く調整すれば、機能性の付与は可能である。
④ 栽培方法で機能性を変化させうることが判ったので、安定したカンパリ種塩トマトを栽培している井手農家からサンプルを取り寄せ、統計的な分析をやってみることを検討する。
  ⇒ デザイナーズフーズでは、150~200検体/月こなしているので、一段毎(1週間)で1検体のサンプル調査は可能。
⑤ 高糖度トマトを生産している上杉農家にも、今後機能性トマト栽培をお願いすることは可能となった。
⑥ 機能性のバラツキを抑えるために、栽培マニュアルを作成し安定性を確立する。
⑦ 機能性といっても、リコペン、抗酸化力、ビタミンC、糖度等色々ある。機能性の数値上の定義が必要。
⑧ 機能性トマトの栽培農家を上杉農家、メロン農家と幅広く考えることができる。
⑨ 水については、途中からコントロールして行う。第3段~7段。
⑩ トマトの栽培は、土壌構造が40%、栽培技術が60%である。
⑪ 土壌は、水持ちと排水性について、両方の機能を持つことが重要。
⑫ 毛管水か重力水の区別も重要。畑の土壌の水は、どの程度蓄えられているか。

4-2-4.  栽培トマトの評価表

 表4-4に各種トマトを試食した評価表を示す。

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''4-3.  第3期栽培(平成24年10月1日~平成25年3月15日 冬場)''

4-3-1.  栽培目的

 図4-3に四日市農業センターで実施したカンパリ種(中玉)、桃太郎コルト(大玉)、アニモ(大玉)の栽培概要を示す。今回は、下記2つの目的のもとに機能性トマトの栽培を行った。
(1) 水管理を駆使してカンパリ種での高糖度トマトの実現。
(2) 栽培段数と抗酸化成分との相関調査。トマトの持つ機能性成分については、デザイナーフーズ㈱にて分析する。

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4-3-2.  栽培品種区分

① 第3期栽培での容器は、カンパリ中玉は金色、コルト大玉は銀色とする。

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② 全体では、200株超となる。中玉-カンパリ1種、大玉-コルト、アニモ2種の計3種。
③ 上杉さんの桃太郎高糖度トマトは、機能性トマトとして十分に通じる。

4-3-3.  種を蒔いて発芽させる方法

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① 種を蒔いて発芽させる場合、冬場であると下から熱を与える必要がある。
② 種植えは10/1日。10/30日に観察。これから2週間以内に定植をする。
③ 苗で育てる目安はつぼみが見えるまで
(写真4-7)。
④ 現在の苗の段階での水の管理は、乾いたら2~3日に一度やる。
⑤ カンパリ中玉の内、10株は隔離ベッド用の試験栽培に向ける。

4-3-4.  接ぎ木で発育させる方法

① アニモ大玉は、接ぎ木用で10~12株とする。
② 第1回目は失敗し、10/27日に台木の再挑戦。
③ 両者の生育状況が同程度でないとさし木はできない。
④ トマトの台木には、ナスを使う。理由は、ナスの方が幹が細いので根の成長が弱く、水が下がらない。これによって糖度を保つことができる。

4-3-5.  温室での栽培方法

① 温室20mの値段は、約100万円(写真4-8)。
② トラクターは2回かける。
③ 一部は5m幅でマルチを入れる。目的は、根がマルチの外へ出ないようにするため。断根シートと呼ぶ(写真4-9)。

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4-3-6.  栽培結果

(1) 秋から春は安心して水を絞ることができるが、夏場は水を絞れない。
(2) 四日市農業センターの土壌は、水を入れるとダボダボになる。これは土壌の水持ち水捌け特性の問題として捉える。
(3) 四日市農業センターの土壌は敏感で、玉が大きくなっても機能性を示すものがある。これは井手農家とは違った特徴である。

4-3-7. トマト成分測定結果

 表4-5にデザイナーフーズで実施したトマト成分の測定結果を示す。図4-4には、トマト成分の段数による変化を示す。

              表4-5 トマト成分分析結果

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4-4.  第4期栽培(平成25年4月23日~平成25年7月30日 夏場)

4-4-1.  栽培目的

 図4-5に四日市農業センターで実施したカンパリ種(中玉)、華クイーン(中玉)、千果(ミニ)の栽培概要を示す。今回は、下記2つの目的のもとに機能性トマトの栽培を行った。
(1) 温室でのトマト栽培は、通常は冬場に行われるが、夏場での栽培が可能かどうかを確かめる。特に夏場での水絞りが可能かどうかが調査のポイント。
(2) メロン農家は隔離ベッドを使用するが、この隔離ベッドを用いて機能性トマトの栽培が可能かどうかを確認する。

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4-4-2.  隔離ベッド栽培

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 写真4-10に隔離ベッドでのトマトの栽培状況を示す。








4-4-3.  栽培結果

 表4-6にトマト成分分析結果を、図4-6にトマト成分の段数による変化を示す。
(1) 第4期では、カンパリ(中玉)、華クイーン(中玉)、千果(ミニトマト)を夏場に温室での栽培を試みたが、水絞りは困難であった。特に隔離ベッド栽培では、水絞りを行えなかった。
(2) ミニトマトは糖度8とまずまずであったが、カンパリは糖度6~7と基準の8に到達しなかった。
(3) 抗酸化性成分は塩トマトレベルであった。

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5. トマトの機能性指標化

 機能性トマト栽培技術開発は、現在、国立大学法人三重大学(社会連携研究センター、生物資源学研究科、医学系研究科)、四日市市農業センター、デザイナーフーズ株式会社、コラボ産学官三重支部、上杉農家、井手農家の6機関でコンソーシアムを組み展開している。

 コンソーシアムの1機関であるデザイナーフーズ㈱にて、一般のトマト、井手農家のカンパリ種塩トマトを対象に、水の絞り方、トマトの栽培段数といった栽培方法と、トマトの機能性成分の関係を調べた。その結果、栽培方法と機能性成分の間には密接な関係があることが分かった。

 そこで、今回トマトの機能性指標化に当り、機能性を示す因子としては、抗酸化力(DPPH法)と糖度(Brix値)を取り上げた。

 トマトの抗酸化力を評価するDPPH法とは、DPPH(活性酸素様物質)に野菜を加えた時、野菜の抗酸化能力が強ければ紫色が無色に変わることを利用している。色の濃さを測定するには、512nmの波長を利用する。図5-1に示す様に、この波長を持つ光は、紫色に吸収されるので、透過した光の強さを分光光度計で測定することによって評価が可能となる。

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 一方、糖度(Brix値)とは、1グラムのショ糖が20℃の水溶液100グラムに溶けているとき、その溶液のBrix値は1度であると定義される。このショ糖溶液と同じ糖度屈折計の値を示す溶液のBrix値も1度である。糖度屈折計は、試料液に含まれる糖の含有量によって光の屈折率が異なる性質を利用している。図5-2に示す様に試料液とその試料液を置くプリズムとの屈折率の差を測定し、それを糖度として読み取れるようにしたものである。


 表5-1にデザイナーフーズ㈱によるトマトの機能性評価結果を示す。

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 一般トマトについては、2011年までに検体数n=2,222で測定が行われてきたが、平均の抗酸化力が24.7mgTE/100g、糖度5.4である。一方、リコペン、βカロテン、ポリフェノールといった抗酸化物質が多く含まれていることが確認されている熊本県有明海干拓地の井手農家のカンパリ種塩トマトでは、抗酸化力38.55mgTE/100g、糖度8.0となっている。

 この一般トマトと塩トマトの抗酸化力、糖度は有意差を示しており、トマトの機能性を示す尺度として使用できる。

 更に、2014年には井手農家での塩トマトの栽培段数19段全てに対し塩トマトを採取し、抗酸化力(DPPH法)、糖度(Brix値)、ビタミンC、リコペン、重量の変化を追跡している。図5-3にその結果を示すが、抗酸化力、糖度ともに1~3段までの成長期間においては
機能性指標値である抗酸化力35mgTE/100g、糖度8まで到達していない。3段以降に入って、一旦成長が完了すれば、いずれも指標値をクリアしていることがわかる。

 従って、我々の四日市ブランド「四トマ」の機能性の指標は、抗酸化力35mgTE/100g、糖度8以上と定義する。

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6. おわりに

 熊本の井手トマト農家は、19段という多段栽培をやっており、その基本的考え方は、第1段~第3段までは、水を十分に与えることで根を張らせる。第3段以降では、水を意図的に絞ることで、糖度を上げて行く、ことであった。抗酸化成分はカンパリという品種を選択し、糖度を上げることで自ずと備わった。

 一方、四日市農業センターでは、運用上の問題から、高々5段程度での栽培段数の中で、糖度をいかにして上げるか、抗酸化成分をどの様にして付加するかを検討しなければならないという課題に直面してきた。そのため、ブランド化に不可欠な糖度を上げるために、1段目から水を絞って検討せざるを得なかった。その中で、カンパリ種という品種を栽培することで、35mgTE/100gの抗酸化成分を確保し、水を上手く絞ることで8以上の糖度を得ることができた。これにより、四日市の地にも機能性トマトを栽培する手法をほぼ確立できたと考えている。

 今後は、デザイナーフーズ(株)での各種トマトの抗酸化性成分の評価データに基づき、四日市ブランドトマト「四トマ」の機能性の定義を進め、四日市の土地に機能性トマトを栽培する農家を育成していくことになる。



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